「戦略的TPM」で新しいものづくり革新を―経営戦略とリンクする総合一貫型のTPMとは― No.6

連載第6回 S-TPMメニュー解説編 「事業継続&総資産管理」「顧客満足&営業革新」 その2

顧客満足&営業革新

 営業としては売上を上げることが一番の望みである。しかし、その前に営業で売れた”もの“や”サービス“が本当に顧客満足を得ているか否かを把握することが非常に大事です。そこを重点にアプローチできている場合が少ないようです。したがって、営業革新とは別に顧客満足という観点でその革新を図る必要があります。
 一般的には営業の範疇に顧客満足や顧客満足度の調査も包含されることが多いですが、あえてS-TPMでは営業から独立させて顧客満足&営業革新のメニューを策定しました。

■事業継続の要は顧客である

 売上を上げ、事業継続を行なうためには潜在、顕在を問わず、顧客満足が非常に大事なことです。顧客が自社の事業を支持してくれて、ますます事業拡大を支援してくれるのです。
 そうなるためには、下に示すように、顧客の潜在期待に対して、購入した結果満足が大きいか否かです。

潜在期待 < 結果満足 ? ⇒顧客の支援による事業継続

 この結果満足が継続し続け、代金回収が滞りなく進めば、事業継続も安泰になります。すべての事業がこの原点に立脚できるビジネスになれるように虚心坦懐に臨むことが必要です。

■顧客満足革新とは

 顧客満足革新とは、勝てるシナリオ(筋書き)で
①紐付けされた
②稼げるS-TPMツールの武器で実現する
③革新的
④顧客が熱烈に満足し
⑤企業群価値実現メソッド
です。

 要するに、現状の製品サービス提供状況の1件1件を調べ、他社の製品・サービスを購入するより圧倒的に満足度が高い場合は、他社の購入に移るケースはきわめて低くなります。もちろん、複数購買を義務づけられていることで他社購入もゼロではないとしても、顧客満足度が高ければ、本命での主力購入先になれるわけです。

■顧客とのビジネス継続は毎回毎回の顧客満足度がカギ

 具体的には下図に示すように、購買前期待値と購買後知覚成果を対比して購買前期待値が購買後知覚成果より大きいならば、「期待外れ」となり顧客を失うことにつながります。製品サービスが購買前期待と購買後知覚成果と同等くらいでも、顧客を失う危険性が大きく下がるわけではありません。常に期待を上回る購買後の知覚成果を獲得すべきです。

図9 購買前期待値と購買後の知覚成果の関係

■三現主義に基づく「ダイレクト顧客満足度調査」

 一般的な顧客満足度調査を調べてみると、1つひとつの個々の取引での満足度を直接的に把握しているものではないことがわかります。顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)調査とは、「自社の商品・サービスに対する顧客の期待と満足度を調査するもの」とあり、一瞬、期待どおりの真実を測定するもかのように思えてしまいます。しかし、実際の調査方法を調べてみると、①市場内での製品評価、②商品・機能別の満足度(競合比較)、③総合満足度(顧客層の把握、購入理由、使用方法、会社の販売やサービス)を見ているのです。これらの顧客満足度調査だけでは、1回ずつのオーダーや購入についての個々の満足度は調べ切れていないのです。
 そこで、三現主義にこだわるTPMとしては、1つひとつの追跡調査をしながら、購入単位での満足度を調査していくことを提言します。これを「ダイレクト顧客満足度調査」と呼ぶことにします(まだ継続的な研究が必要な段階ですが)。売上の伸び悩みに苦しむ前に、もう一度現況の購入チャネルおよび1つひとつの商流およびオーダーごとに、売上機会の損失になっている要素がないかを調べるのです。三現主義の原点に立ち返ってみましょう。

図10 ダイレクト顧客満足度調査のイメージ図

■ビジネスの仕方および売上向上の仕組みを革新する営業管理

 次は営業革新です。従来の顧客や営業スタイルがあるので、なかなか変革しにくいのが営業です。営業システムやIoT技術の進展で、革新すべき潮流は流れています。しかしながら、ビジネスの仕方(ビジネスモデル:何でお金を得ようとしているか? お金の取り方)を見直さないと、大きな視座での変革を成し遂げることはできません。
 製造業であれば、
自分の「得意なところだけのもの売り」を(言い値で売れるほどに)ダントツに特化していくか?
顧客視点から見直して、その「得意なものを使用する周辺部材もセット」で売っていくか?
顧客が自社商品を購入したときに、必要になる選択作業や必要部材およびその「使用シーン」をより良いものにするための「提案オプション商品」も提供していくか?
など、いろいろな選択肢が考えられます。
 それらの製品・サービスを全部自前で揃える必要はありませんが、顧客の困りそうなことを先に考え、リーズナブルな価格で用意できていれば、殿様商売的に「自分の好きな部分を相手構わず勝手に買ってくれ」に近い商売をしている会社の商品よりも、当然支持されて売れていくことにつながるはずです。

■圧倒的な顧客支持が増加し、経営戦略から見た最高の営業戦略を立案する

 前項の内容を踏まえると、顧客のことを良く考えて、顧客の困ったことを取り去るビジネスをやれば、顧客が自社のビジネスを圧倒的に支持してくれるということです。売るだけのための営業努力などは必要なく、企業の存在や事業拡大を熱烈に支持される最高の営業戦略が見えてきます。

図11 営業革新のレベル別にねらうもの

■顧客価値が爆増するビジネスモデルの実現

「顧客の困りごと」を「取り去る」ことが適正な「対価」未満で、どんなときも常にできれば、顧客が熱烈に支持してくれて、売上が爆増するビジネス骨子ができてきます。これは、一時的に流行ったソリューションビジネスに近いものです。ところが、そうなる以前にさまざまな「つまずき」を経験していませんか。
 初級レベルのつまずきは、「お客様に聞いても教えてくれない」「顧客の困りごとがわからない」などです。中級レベルとなると、たくさんの困りごとを拾ってきたはいいが自分たちで問題解決できず、技術部隊や設計部隊に丸投げして通常業務が大混乱、ソリューソンビジネスの中止に至ったなどのつまずきです。さらに上級となると、たとえば、そこそこの困ったことを吸い上げ、対応ができて個々のソリューションはうまく解決できたが、品種が増加するのに品種別出荷量が増えなかったり、常に技術要員が張り付かないと解決できないので抱える固定費が急増したりして、事業自体の収益が大きく悪化してしまう、などです。
 つまずきには多くの種類とレベルがあります。結果として自社の問題解決力が不足してソリューションビジネスが名前倒れしてしまう、目先の限定範囲での商材や一部の担当者に依存した展開に留まっている、ということが多いようです。

■営業戦略を実現するための納得できる戦術

 顧客の困りごとを洞察しつつ、そのプロセスに手間やコストをかけず、個々の困りごとを解決する手段を提供する--これができないと利益を生み出し続ける継続的ビジネスにはなりません。
 すなわち、戦略としては
・ニーズの吸い上げを多くする
・問題解決は困りごとを束ねて処理できるソリューションの仕組みを持つ
・低コストで多数のニーズを処理できる体制をつくる
・多くの顧客を取り込んで売上を上げつつ、コストを抑える
など一網打尽の戦略を立てられれば、納得できるものとなります。

■営業戦略・戦術を実現することに最適な営業プロセス

 コンサルタントとして営業の支援をしていると、多くの営業プロセスにムダが多いことがわかってきます。もちろん、顧客も多様のため決め打ちの金太郎飴のような標準プロセスで顧客が納得し、オーダーを出してくれるわけではないこともわかっています。もう一度すべての営業プロセスを洗い出し、過去のノウハウを玉成したようなもっと賢い営業プロセスを完成させている会社はまだ少ないと感じています。
 この機会に、戦略を賢く実現できる戦術がシームレスにつながっていて、かつプロセスの見える化とスマート化を実現することを企画していただきたいと思います。

■顧客価値が爆増する営業プロセスの革新

 自社の営業プロセスを振り返ってみてください。どのくらい手順とノウハウをフル活用しているでしょうか。少なくとも毎回やらなくてはならない業務が必要最小限の手間と工数で済ませるためのナレッジ化とシステム化を実現されていること期待します。もちろん、新人が即戦力になれるように、さまざまシーンでの絶妙なトークスクリプト(台本)なども準備、作成すべきです。また、書類のベストプラクティスが反映されたひな型(テンプレート)や対話式に入力すれば提案書や企画書の原案が完成するなどのIT化もさらに進めるべきです。
 下図はノウハウやゲートレビュー項目を入れ込んだ営業マニュアル例(抜粋)です。これと似たようなものはすでに作成されているとは思いますが、作成すれば終わりでなく、どんどん進化させるために追記・改訂を絶え間なく継続していかなければなりません。

図12 第2象限を攻める営業マニュアル例(抜粋)

■営業経営成果検証と持続成長化のための歯止め

 営業がうまくいっているか否かは、ねらった売上目標の達成度だけを見ても、検証できているとは言えません。
 ポイントは、
・立てた戦略がねらいどおりに展開しているか?
・そのプロセスの中身と実際が一致していたか?
・簡単に達成できたとき、もっとストレッチできる目標ではなかったか?
などを振り返ることです。
 常に経営に貢献するための営業成果の検証とさらなる発展余地を探究する姿勢を貫く必要があります。また、その飽くなき発展的で持続的な成長をマンネリ化せず継続させるには、テーマを変えた刺激策を企画する仕組みを具備することが大切です。

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著者プロフィール

TPM革新センター シニア・コンサルタント
白濱 伸也(しらはま しんや)

1984年 JMAC入社。経営・生産・設備・間接領域におけるコンサルティング活動に従事。主要テーマは、経営戦略視点からのTPM展開支援、ビジネスプロセス革新、大幅コストダウン、リーンシックスシグマ展開支援、戦略的ISO9000&14000システム構築支援、生産システム設計、ヘルスケアコンサルティング、ビジネスモデル革新など。近年は、「17本のメニューに基づく新TPM(S-TPM)の推進者として提唱・普及に務めている。共著に『TPM成功の秘訣21』(JMAC)、『工場改善ハンドブック』(JMA)、『TPM展開ガイド』(JMAC)、『病院まるまる改善』(日本医療企画)、著作に『業務改革』(日本医療企画)、『儲ける開発』(JMAC)ほか多数、雑誌への寄稿も多数。

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