「戦略的TPM」で新しいものづくり革新を―経営戦略とリンクする総合一貫型のTPMとは― No.18

「戦略的TPM」で新しいものづくり革新を―経営戦略とリンクする総合一貫型のTPMとは― No.18

第18回(最終回) 戦略的TPM(S-TPM)のまとめ S-TPMの必要性を理解する

S-TPM開発の背景

 戦略的TPM(S-TPM)は、国内外のTPM普及に尽力された故・鈴木徳太郎氏(元日本プラントメンテナンス協会副会長)の悲願として次世代のTPMの開発を強く望まれていたことを契機に、日本能率協会グループ法人の協力を得ながら筆者らが開発してきたものです。
 鈴木氏の講演原稿には11本ほどのメニューの原型(8本柱プラス3本)があったことから、新しい経済環境の変化にも対応できて、大いに頼りになる「強いTPM」の誕生に強く期待されていたことがわかります。もちろん基本のTPMは大切にしつつ、ここぞというときの守破離、従来の概念を破壊する発想をたいへん重要視されていました。
 本連載で解説してきたS-TPMが、鈴木氏の期待どおりのものかどうかは、今となっては確かめることはできませんが、「従来の概念を超え、大きな経営成果をもたらすことができる」プログラムに仕上がったと自負できます。
 だだし、従来のTPMの概念を超えているために、「これはもはやTPMではない」と評する人もいます。一方で、「S-TPMは企業の実例がどれだけ蓄積されていくかで評価される」との声もありました。たしかに、TPMの発展は、企業の実例が積み重なり、体系化されていったからこそです。新しい考えを取り入れ、実践し、成果を出す。こうした企業が増えることで、新しい考え方の素晴らしさが立証されるのです。

 本コラムの執筆企画当初は、新型コロナによる影響もなかったので、JMACのS-TPM開発メンバーが世界各地に適用事例を増やしていきました。本連載の最終回のころには、多くのS-TPM展開事例を紹介する予定でした。しかし、コロナ禍で2年近くも渡航禁止や訪問禁止となり、各社のS-TPM展開を強化する支援が滞ってしまいました。こうした中でも、各社ではS-TPMを継続しているようですが、活動展開のスピードや内容については、まだ紹介できる段階ではないと判断しました。そこで最終回となる今回は、これまでのおさらいをしながら、S-TPMの展開でどのような戦略を立てるか紹介することで、本コラムのまとめとします。

17本メニューから勝てるシナリオを組み立てる

 戦略的TPM(S-TPM)を一言でいうと「勝てる筋書きのあるTPMの展開」のことです。つまり、ねらいと手段を合理的につなぎ、顧客の支持を得て、競合に断トツで競り勝ち、自社が永続的に発展し革新を継続できるTPM展開を実施することです。
 S-TPMでは、各17本のメニューを使って、シナリオを組み立てます。これは企業経営の羅針盤として機能します。目指す未来の実現に向けて、どの施策をどう実施するかを見えるようにするのです。

図1 企業経営の羅針盤として機能するS-TPM

図1 企業経営の羅針盤として機能するS-TPM

 具体的には、図1のように自社の「ミッション」と「ビジョン」を持ち、自社の持っているユニークな「価値」を活用しながら、「目指す未来」を年度ごとに描いていきます。その際に必要となる17のメニューを活用し、その原資を生み出し、リソースの革新を行うことによって、確実に目指す姿、目指す未来を実現していくのです。

S-TPMの導入・展開で解決すべき3つの課題

 S-TPMの展開を支援している中で気がついたことがあります。S-TPMの導入・展開には、以下に示す解決すべき3つの課題があるということです。

課題1:戦略の重要性が全員に認識されない

 戦略のない行動は、何の考えもないムダな施策を実施している(空回りしている)ということになります。空回りで事態を悪化させたりすることもあります。直感的に成果が出るように行動すれば、成果がゼロということはないかもしれませんが、効率良い施策をムダなく実施できる確率はかなり低いはずです。ましてや環境や競合の動きの変化があったときに、即時に効果的な判断と行動をとることができません。
 日本では戦略という言葉になじみが少なかったり、企てを悪いもの(悪だくみ)として捉えたりして、戦略の重要性を認識していないことが多々あります。「経営戦略は難しい」「自分たちが考えることではない」などの姿勢です。関心があっても、長い間、戦略を自分のものとして捉える環境が整っていなかったため、本気で考える習慣がないとも言えます。MBAの教科書的な書籍や情報はあるものの、実際に使える戦略の実践的テキストは少なかったのです。
 ここで実務と直結した戦略(勝てる筋書き)を提唱したいと思います。すべての活動でその成果が確実に刈り取れる筋書きをどう立てるか、筋書きがあるといかに効果的な活動を展開できるか、今一度問い直してみましょう。

●戦略のあり/なしで対策はどう変わるか
 戦略を準備し駆使した企業や人は、戦略がない企業や人と比べてどのように違いがあるでしょうか。コロナ対策のケーススタディで考えてみます(実際の対策責任者とは、得られる情報量や権限が違うので、あくまでも戦略のあり/なしの比較の例として捉えてください)。

※本稿の執筆期は東京の4回目の緊急事態宣言下で、東京での1日の感染者は4,000人を超える日が多発しています。海外の状況として、米国などは一時期感染と死者数が爆増していましたが、ワクチンの早期接種によって、いち早くマスク着用義務の解除などを実施しています。ただし、デルタ株などの変異ウイルスが蔓延し始め、まだ沈静化のめどは立っていない時期です。

 新型コロナは人類にとって未知のウイルスなので、「まったく打ち手がわからない。戦略を立てようがない」と思われがちです。しかし、ワクチン開発の前と後の2つに分けて、戦略的な展開になるとどう違うのかを考えてみます。

 図2に戦略的でない新型コロナの対策例を、図3に戦略的な新型コロナの対策例を示します。いずれもPDPC法の記述法に基づいています。PDPC法とは、Process Decision Program Chartのことで、日本語では過程決定計画図と呼ばれています(S-TPMでは戦略を記述する必須ツールです)。

図2 戦略的でないコロナ対策の例

図3 戦略的コロナ対策例

 クルーズ船で集団感染が発生した初期の段階で、限られた範囲の中でも情報収集と知見を集めたて勝てる筋書きを立てているか、ワクチン開発前でも効果的なプランになっているか、がカギになります。
 図2(戦略なし)では初期対応が良くなく、その後の感染防止対策のモデルも確立できないまま感染が拡大してしまいました。図3(戦略あり)では、クルーズ船の感染で、その後の感染防止モデルを確立するとともに、その後の感染拡大の封じ込めも見通せるシナリオになっています。
 ワクチン開発後は、感染を広げてしまいそうな層に免疫獲得者を増やすことが重要になります。
 図2では高齢者からワクチン接種を進めたので、感染した人の重症化および死亡を防ぐことはできても、感染防止という面では有効な施策になっていません。
 図3では若年層にワクチン接種を進めることで、活動層での免疫獲得者を増やし、感染者の増加を効果的に抑える作戦になっていることがよくわかります。ウイルスの蔓延状況のKPI収集(主な都市の下水道からウイルスを採取するなど)、感染状況のKPI収集(PCR検査、抗体検査など)を政策として実施し、コロナ関連情報を国民と共有し、危機感と感染防止に協力への動機づけを行うことも併用することになります。
 このように戦略の有無で大きな違いが出ることが、おわかりいただけたかと思います。

課題2:戦略の立て方がわからない

戦略の重要性を理解していても、戦略と聞いただけで尻込みしたり、自分にはつくれない、考えられないと諦めたりする人も少なくありません。目的を達成するために、どの手段をどのタイミングで、どの順番でどう実施すればもっとも効率的になるかを、わかりやすくまとめた教科書や論文は少ないのは確かです。
本コラムでは戦略の教科書レベルまでの詳しい内容は記載できませんが、実践的な戦略の立て方のポイントを示します。もちろん、このポイントすべてを実施する必要はありません。いくつかを選択して、戦略立案の参考にしてください(実例の概要は後述します)。

【実践的な戦略の立て方のポイント】(後の図6も参照のこと)
①環境把握
 困っていることの整理、今後の悪い事態への洞察、状況把握のための的確なKPI設定などが必要です。現状の状況を良く調査して、可能な限り多方面から環境を定量的に分析します。

②パワーバランスの構図俯瞰(勝ち負けの構図)
 現行の勝ちシナリオを想定どおりに成功させるために、障害となる「敵」を明確にします。負けるとすればその敗因を勝った負けたの構図(図6の2.パワーバランスの構図俯瞰(勝ち負けの構図)参照)で表現します。

③勝てる筋書き・シナリオ
①②を踏まえて、どのような環境でも負けの構図に陥らない対策を事前に施して、確実に勝てる筋書き・シナリオを描きます(記述は文章でかまいませんが、可能な限り論理的な表現として図2、3で表現したPDPC法などにしてください)。

④あらゆる状況での(読みが違った場合での)次善策の装備
③で基本的なシナリオは描いているが、途中で起きる変化に対して準備したシナリオも準備します。さらにまったく予測していない展開になった場合も早急にリカバリー策を打てるように備えておくことです。

⑤必ず良い方に向い勝算がある仕組み
仕組み全体として、何があっても良い方向に向かうような準備をしておくことです。戦略を立てても現状より悪くなる可能性が高いときは、その方向でシナリオを描くこと自体を止めるという判断も必要です。

⑥ねらうオチ(最高・次善・避けたい失敗除去策)
最終ゴールや落ち着くところ(出口)を筋書きどおりのベストなものになるように、事前準備は欠かせません。どうしても避けられない環境変化で、思ったより良くない方向に展開する場合に備えて、次善のゴールも設定しておきます。もちろん、避けたい失敗に対しては、事前にその失敗に陥らないための防御策を打っておくことです。

⑦進行とともに変化・成長するシナリオ
絶えず変化する環境下では、悪い方向に行った場合を事前に予測しておくべきす。現実の進行とともに、事前に描いたシナリオも変化、進化、成長させ、事態をリカバーできるようにしておきます。

⑧戦略の検証(シナリオなしの場合の利得率5倍以上を担保)
 戦略シナリオを実行に移す前に、他のシナリオも複数本立てて、シミュレーションします。良い部分はさらに改善し、欠点があれば他のシナリオの良いところを取り入れて修正します。何もシナリオを描かなかった場合の5倍以上優れた成果を得られるかを検証してから実施に移ります。

課題3:戦略に納得が得られにくい

 あくまでも戦略は、仮説のシナリオです。誰かが立てた戦略が、唯一の万能解になるわけでもありません。戦略を信頼してシナリオどおりに実行していく際に重要なのは、決断と勇気です。
とくに戦略の立案・実行で一定の資金や工数が必要な場合、十分な説明がないままではすぐには良い評価を得られません。課題1の戦略の重要性を理解できない人たちもいるわけですし、多くの人々に多数決で同意を得て納得された状態にすることは容易ではありません。多くのリソースを必要とする場合、その決済を得るのはそう簡単ではないです。
 戦略リテラシーが高くない人たちに納得してもらうのは至難の業である。少人数でも同意の立場にいるメンバーから個別に説明していき、「同志」を増やしていく努力が必要になります。

なぜS-TPMなのか

ここではS-TPMの特徴をこれまでと違った面から総括してみます。

①強力なツールで成果が出る
 S-TPMには、設備生産性のn倍化、工数半減化、故障ゼロ化ストーリーなどの強力なツールがあります。これらを活用することで、原資をつくりながら、ただ単に生産性を向上させるだけでなく、ビジネスの仕方、収益確保の方法を変え、競争にも強くなります。経営成果に直結する指標を設定し、向上させることができます。

②旧来のTPMを原点にして大きく発展
 旧来のTPMには、実際に企業で展開できるように多くの工夫と改良が施されています。その良い部分を尊重して、さらにより多くの課題解決に応えるよう革新的なメニューを加える形でS-TPMは構成されています。図4は、TPMとS-TPMのメニューを対比したものです。

図4 TPMとS-TPMのメニューの対比

図4 TPMとS-TPMのメニューの対比

 図式上の構成は、管理間接の柱を10個のメニューに分割した形になっていますが、S-TPMだけに着目すれば、17本のメニューで構成されていると考えてください。
 ここでとくに説明しておいきたのが、「開発管理」のことです。市場の要望に対応し、大きな経営成果を生むために、新製品の開発管理だけでなく、新しいビジネスモデル(お金の取り方)を生み出す開発管理も必要です。そこで、新たにビジネスモデル開発管理を追加し、従来型のビジネス(商品・事業)に固執し過ぎてジリ貧にならないよう、現状のビジネス(商売の仕方)さえも変革できるようにしました。ビジネスモデルの開発管理には、当然、設備プロセスだけでなく、商品企画やマーケティングを含めた営業などのプロセスも、リーンでスマートなビジネスプロセスとして開発しなければなりません。そのためのメニューとして、ビジネスプロセスリーン開発管理を用意しました。
 この他にも、従来の8本柱にある管理間接部門の活動において、とくに事務業務を対象にしたオフィスワーク革新をリニューアルして1本のメニューとしています。なお、その他のメニュー概要は次項にまとめておきます。

③メニュー17本から選択して実施
 企業が抱える問題の解決は多岐にわたり、そのための活動展開の方法も多様化しています。こうした状況でもフレキシブルに支援できるように、17の経営機能をエントリーし、それらを支援メニューとして定めました。図5におさらいとしてS-TPMの17本メニューの概要を示します。
 前節で述べたように、複雑に展開する企業環境を多角的に乗り切る必要性から、従来の8本柱に加えて17本のメニューにしました。この数だけを見て、「17は多すぎる」「展開しきれない」という人もいますが、述べたように何も全部のメニューを展開する必要はなりません。必要なメニューを選んでそれだけを実施すればよいのです。レストランでもメニューを全部頼むことはありませんし、今自分が食べたくないメニューが多くあるからといって、誰もそのメニューが不要だと言う人はいません。今は頼まないにしろ、次はこれを食べてみようと選択できるメニューが多いほうが嬉しいはずです。
 実施している項目はさらに強化でき、実施していなかったことには新たに挑戦しやくなっています。可能な限り多くのメニューを参考にしていただくことを期待します。もちろん、実施しないメニューあってもまったく問題はありません。必要なときに必要なメニューを実施し、成果を上げてください。不要になれば、やらなくてもかまいません

図5 17メニューの概要

図5 17メニューの概要

 繰り返しますが、もともとのTPM8本柱をベースにS-TPM17本メニューとして強化しました。将来的にはまた違った方向性で強化されていくかもしれませんが、現時点では今回の強化で旧来のTPMの弱点部分、空白部分をかなり埋めることができました。長年期待されながら、なかなか提供できなかったものです。不足点や懸念点があれば、ぜひ著者まで連絡をください。

 S-TPMには戦略シナリオの羅針盤機能とそれを支えるツール類が備わっています。これまで不可能だったことを可能にし、新しいビジネスを切り拓く革新的な活動を提供できると確信しています。多くの企業で活用、展開されることを期待します。①信じること、②研究すること、③しつこく諦めないこと——の3つを心がけて展開してください。みなさまからの評価をお待ちしています。

コラム:「なんでもやれる」を豪語するコンサルタントに要注意
 企業のコンサルティングには、これまで以上に専門性が重要になってきます。コンサルタント一人で担当することは難しくなります。誰にでも不得意な分野はありますから、得意分野に特化した支援を意識すべきです。無理に苦手な分野の展開を支援して、ねらった成果が出ないようであれば、顧客からはS-TPMもしくはそのメニューがダメだと低く評価されてしまうかもしれません。
「なんでもやれる」というスタンスのコンサルタントには属人的な安心感があるかもしれませんが、「本当のプロは苦手なことはやらない」のです。深い専門知識に裏づけられる信頼性が求められる時代になってきましたので、わきまえた支援を心がける必要があります。

戦略ツールの使い方

S-TPMの活かし方

 S-TPMを活かすには、各ツールの特色とうまい使い方を学ぶことが一番の近道です。各戦略ツール(強化ツール)の中でも、とくに活用してもらいたい5つに絞って紹介します。
 下記に5つのS-TPM戦略ツールの概要を示します。これらの武器をフル活用することで、活動の原資となるリソースを多く生み出し、大きな経営成果に結びつきます(シナリオへの具体的なつなぎ方は後述します)。S-TPMの理想的な展開ストーリーとは、①戦略シナリオを仮に立てる、②シナリオに必要なリソースを戦略ツールで稼ぎ出す、③リソースのフル活用で、多大な成果を上げる、④成果のなる木に成長させる(成果が出る仕組みづくり)、⑤木を増殖させて莫大な成果を生む、⑥成果の一部を世の中に還元していく、と言えます。

【S-TPM戦略ツールの概要】
1.S-TPMの戦略シナリオ
 目指す経営的な姿を明確にして、そのめざす姿への達成度を測る定量的な目標を設定する。どのメニューのどの施策とシナリオ(筋書き)でその目標を達成するのかを定めてから活動を実施すること。

2.設備生産性n倍化ツール
 設備の理論サイクルタイムを相対的に現状のn分の1にすることで、設備生産性をn倍にして抜本的な生産性向上を実現すること。

3.工数半減ツール
 直接、間接業務を問わず、現状の作業工数を半分の工数で現状のアウトプットを創出する作業方法の改善を実現すること。

4.故障ゼロ具現化プログラム
 設備のすべてのパーツの寿命を予測し、その寿命に至る前にメンテナンスすることで故障をゼロ化すること。

5.パーフェクトQ生産実現プログラム
 すべてのプロセスに、つくる前の「もの」の品質ポイントを押さえ、次にその「工程」の加工指示品質ポイントを押さえる。さらに加工後、その「工程」の完了確認品質ポイントを押さえ、終わりに加工が終わった「もの」の品質ポイントを確認する。このプロセス確認を全工程で実施することでパーフェクトQ(品質)生産を実現すること。

戦略ありきで武器(ツール)を活かす、使い切る

 S-TPMの支援をしていて、とくに感じることがあります。自社を取り巻く環境に合わせて戦略シナリオを立ててから、戦略ツールをどう使うか、どう組み合わせるかを、苦手にしている人がけっこういます。そこで、詳しい経営環境や持てる経営リソースを聞いて、その企業固有の戦略シナリオと戦略ツールの使い方を例示することも多々あります。その中から公開できるかたちにアレンジしたものを図6に紹介します。戦略ありきで、武器(ツール)を使い切ることの意義をイメージできると思います。

図6 A社(電子部品企業)でのS-TPM戦略シナリオ概要例

図6 A社(電子部品企業)でのS-TPM戦略シナリオ概要例

世界一を実現するシナリオづくり(S-TPM活用事例)

従来のTPMで一定の成果を出しても、さらに上を目指してチャレンジできる企業は限られていると感じていました。裏を返せば、S-TPMのような革新的な方法論があれば、チャレンジしたい企業も増えてくるはずです。実際、挑戦したい企業からは多くの相談をいただき、S-TPMの展開を支援する機会を得ました。あまりに革新的な活動になるので、戸惑う企業もありましたが、企業の事情に合わせて根気よく支援し、かなりの成果が出始めた矢先に今回のコロナです。前述したように、成果事例までは紹介できませんが、S-TPMの活用事例として戦略シナリオの作成例を取り上げます。この例では、どんな企業でも「世界一」を実現するシナリオを描けることを理解していだけるかと思います。

世界一を目指してみないか

 海外にある化学プラント企業S社の例です(守秘義務の関係から、公開できるかたちアレンジにしています)。
 S社は長年TPM活動を展開し、かなりの成果を出していました。改善が得意で、自主保全の展開もうまくマネジメントされていいます。職場もきれいになり、オペレーターのレベルも向上しました。しかし、現状の仕事のやり方を変えないまま、目に見える大きなムダ取りやロス取りがうまいという活動です。もし活動が下火になったり、経営者が変わったりしたら、その成果の継続を保証できないのでは、と指摘されていました。
 そこで前任のコンサルタントとバトンタッチで筆者が支援に入りました。確かに活動はまじめにやっているし、人材も優秀、成果も年々出ていました。教科書どおりのTPMで、プレゼンテーションも上手です。業績も向上しているし、活動の投資対効果も出ているようで、普通ならとくに問題はないのではと思われるかもしれません。ですが、そこまでなのです。その先がないのです。
 S社には、さらに大きな目標へのチャレンジが必要だと感じ、「世界一」を目指したらどうかと投げかけました。もちろん、将来のいつかというアイマイな目標ではありません。期日と定量的なゴールを定め、そこから逆算して各指標の目標値とマイルストーンを決めなければなりません。世界一という自他ともに認められる高いゴールに向けて、さまざまな指標の目標設定とスケジュールを描く必要があることを説きました。予想どおりの反応でした。自分たちにはその気はないし、ましてやそのシナリオもつくれないと。確かに生産量やシェアを見れば、S社は「世界一」の域にはありません。

新しいビジネスモデルの構築を

 まず業界動向を調べてみました。中間原料を製造しているS社は化学業界の中では輸出もあり、業績は伸びていました。しかし、さらに調べを進めると、各国では原料から中間原料および最終製品までの一貫生産を志向し始めていることがわかりました。つまり、現在の輸出先の顧客は、そう遠くない将来に自社もしくは自国生産により、輸入不要になるどころか、競合になってしまうわけです。このままではいけません。そこで、小さくてもよいので最終製品メーカーと業務提携か買収するかで、自社サプライチェーンに原料から製品までの強力な一貫生産チェーンをつくることを提案しました。もちろん、現製造ラインの設備生産性n倍化も具体的に示唆しました。原材料・資材・物流の購入費・調達費も2割以上の削減を検討するようにしました。これらを検討するスタッフを生み出すために、全部署に工数半減プログラムの方法をレクチャーし、具体的に半減を支援しました。また、営業や商品開発部門にも活動への参加を依頼し、新しいビジネスモデルとして一貫調達生産販売のモデルを実施するにはどの商材が自社にもっともふさわしいかを検討してもらいました。

S-TPMのツールで大変革

 この段階で新型コロナの影響でしばらく間が空いてから、変更された事業計画の報告を受け驚きました。こちらが指摘・アドバイスした内容のほとんどが取り込まれていたのです。経営層が今後の経営計画を検討した結果、ほぼこちらのアドバイス内容のことを見通すことができ、自社工場の生産性をn倍にして一部の生産性の悪い工場を閉鎖し、最終製品の工場を新たに建設することになりました。もちろん、現在生産している製品については、能力を向上させた工場でそのままn倍の生産を行います。生産性の低い工場で働いていた従業員は新しい最終製品工場で働けるので、雇用の問題も解決します。ただし、能力アップした工場は生産量が増えるので、工数が増えないように直接部門も工数半減プログラムの適用が必要になります。
 従来の中間原料の生産性はn倍に向上するので、もっと安価な価格で提供できるビジネスモデルもできます。中間原料の生産性は、グローバルで比較しても世界一高い状態を誇れるほどです。また、利益率の高い最終製品を一貫生産・販売できることから、ビジネス領域も大きく変革できそうです。

図7 S社の『世界一の生産性』を目指したS-TPM戦略シナリオ

図7 S社の『世界一の生産性』を目指したS-TPM戦略シナリオ

 これは化学業界の事例ですが、程度の差はあれ、どの業界でも適用できる内容だと思います。「世界一」という高いゴールに挑戦してみたくなる起爆剤になれば幸いです。より上位のレベルにチャレンジして成果を出すには、従来のビジネスモデルやマンネリ化した生産性向上から脱皮しなければならない、との認識からS-TPMを導入する企業が増えてくることを期待しています。S-TPMで企業基盤の安定化、競合に対する優位性の確保を実現できることが広く認知されていけば、導入企業が急増していくのは自明の理と言えます。

 この回を持ちまして、18回におよぶS-TPMのコラムをいったん終了します。S-TPM自体、まだ進化の途中でこれからもますますブラッシュアップしていきます。なお、本コラムをベースにした書籍の発刊も予定しています。読者のみなさんからの多数の質問・批判・アドバイスをお待ちしております。

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著者プロフィール

TPM革新センター シニア・コンサルタント
白濱 伸也(しらはま しんや)

1984年 JMAC入社。経営・生産・設備・間接領域におけるコンサルティング活動に従事。主要テーマは、経営戦略視点からのTPM展開支援、ビジネスプロセス革新、大幅コストダウン、リーンシックスシグマ展開支援、戦略的ISO9000&14000システム構築支援、生産システム設計、ヘルスケアコンサルティング、ビジネスモデル革新など。近年は、「17本のメニューに基づく新TPM(S-TPM)の推進者として提唱・普及に務めている。共著に『TPM成功の秘訣21』(JMAC)、『工場改善ハンドブック』(JMA)、『TPM展開ガイド』(JMAC)、『病院まるまる改善』(日本医療企画)、著作に『業務改革』(日本医療企画)、『儲ける開発』(JMAC)ほか多数、雑誌への寄稿も多数。

TPM革新センター チーフ・コンサルタント
場家 孝(ばっけ たかし)

2012年 JIPMソリューションに入社。TPMコンサルタントとして、さまざまな製造業を支援。前職は、住宅総合資材メーカーと医薬品製造業に勤め、TPM推進事務局をはじめ、製造現場、生産管理、物流、品質管理、品質保証、開発などの管理監督職を経験し、現職に至る。企業時代の経験を活して、各社にTPM活動支援を実施。支援は、国内をはじめタイ、インドネシア、トルコ、ブラジルなどの工場がある。