女性主導による事務所2SX(トランスフォーメーション)活動

事例提供:ダイナパック株式会社

ダイナパック本社

 ダイナパック株式会社は2005年1月に設立された、段ボール、印刷紙器、軟包装材および紙製緩衝材などの包装資材の製造・販売を行う企業である。第2の創業にあたって企業パーパスを「包み、届け、ひらく。」と定めた。単にモノを包むだけではなく、モノに込められた想いを大切に包み、届け、人と人をつなぎ、心や未来をひらいていくのがダイナパック・グループの存在意義、とするものである。

 ダイナパックは、本社(愛知県名古屋市)、東京営業所、国内7事業所、国内グループ会社9社、海外グループ会社7社で事業を展開している。

 今回紹介するのは、工場における生産性を向上させる改善の考え方・推進方法を、間接部門に展開した事例である。その契機となったのが、齊藤光次・代表取締役社長の「2つの想い」だったという。

 1つは、「現場と事務所に温度差がある」という想いだ。生産現場ではTPMの自主保全を地道に展開して、ロス低減や生産性向上などを実現するほか、オペレーターの自律化が進むなど、汗をかきながら成長している。その一方で、事務所には2S(整理・整頓)の意識さえないという実状があった。もう1つが、「事務所は手つかずの状態にある」という想いだ。生産現場のような教育がされておらず、効率化が遅れていることを懸念していたのだ。

 そこで間接部門としても、すべての基本である2Sから取り組み、現場と同じように汗をかきながら業務改善につなげる基盤づくりを目指すことになったのである。

「2SX(トランスフォーメーション)活動」を開始!

 「本社が率先して取り組むことに意義がある」という齊藤社長の意を受け、本社に推進事務局を設置して活動が開始された。同社独自の活動名を本社社員全員から募集して、これまでの考え方や習慣にとらわれずに新たな試みをする“変革(トランスフォーメーション)”の思いを込めて、「2SX活動」と名付けられた。

フェーズ1:業務改善の基盤づくり活動

 工場の生産性向上改善活動の推進方法と、サステナビリティ方針に基づいて展開する運びとなり、フェーズ1は業務改善の基盤づくりを目的に、

  1. 業務インフラ整備=働きやすい環境づくり(モノ・書類・電子情報の2S )
  2. 意識(人)を変える=人材教育(自ら考え課題を解決する/自律化した人材育成)
  3. 職場を変える=多様な人材に活躍の場を提供(部署間のコミュニケーションの向上/若手〜中堅・女性の活躍の場づくり)

に取り組んだ。この後、フェーズ2で業務改善につなげていく重要な活動である。

活動展開における特徴・ポイント

 同社の活動における特徴の1つが、リーダーを一般職から選出した点である。その狙いは、多様な人材や普段はなかなか出番の少ない人材に活躍の場を提供することにある。選出のポイントは、「一般職」「女性」「中途入社者」「年少者」「新規配属者」の5つである。

 また、活動を第1〜第3ステージの3つに分けたが、本社は引越しを機に個人机とキャビネットの処分が進んでいるため、各ステージを3ヵ月で進める計画とした。一方、事業所は個人机からの活動開始となるため、余裕をもたせて4ヵ月で進める計画とした。

 具体的な取組み内容と対象は、本社は第1ステージ:モノ・書類の2S(キャビネット、共用エリア)、第2〜第3ステージ:電子情報の2S(共用サーバー、個人PC)。事業所は第1ステージ:モノの2S(個人机、共用エリア)、第2ステージ:書類の2S(個人机、キャビネット)、第3ステージ:電子情報の2S(共用サーバー、キャビネット)である。

 ステージごとの活動の流れとポイントを下図に示す。「計画」「整理」「整頓」のそれぞれで、活動が停滞することなく全員で進めていく工夫やこだわりが盛り込まれている。

計画_整理_整頓の活動

 また、役員がステージごとに診断シートを用いて進捗確認を行う「トップ診断」も大きな特徴である。事業所全体の運営状況や指導の適切さなどを評価・指導して合否を判定するというものだ。社員にとっては役員の前で発表する場となり、役員にとっては人材発掘の場ともなるため、コミュニケーション向上も含めて有意義な機会になったという。

 齊藤社長からは、「女性がリーダーとしての場を得ることで、持っている潜在能力を存分に発揮し、想定を遥かに超える改善効果を実現してくれたのは嬉しい驚きである。効果が出るに従い、チームの結束力と個々の責任感が強まり、意識改革にも繋がっている」というコメントも寄せられ、活動の成果を改めて実感できる場ともなった。

本社総務部の活動内容

 工場の生産性向上改善活動の推進方法で展開する計画は立てられたものの、初めての活動なので「何をしたらいいのかよくわからない」というのが実情であった。そこで、まずは次のような取組みからスタートすることで、活動量が少しずつ増加していった。

  • 初期は毎日13時から15分間を活動時間に設定
  • 3人の小グループを3つ作って活動し、小グループ内で進捗管理
  • 週1回のミーティングで全体の進捗管理

❶ モノの2S活動の展開

 モノの整理に取り組むにあたって、まずは「リストアップシート」で必要・不急・不要を判定することとした。判定に際しては以下の「基準」を設けて、チーム内で判定にバラツキが出ないように配慮した。

  • 必要品=毎日使うもの
  • 不急品=ときどき使うもの、必要だが必要以上にあるもの、予備品
  • 不要品=使う見込みがないもの、まったく使わないもの

 リストアップを行った結果、総務部担当エリア全体で不急品が66%、不要品が31%、必要品が3%という結果が出た。なぜ、モノが多いのかを検討したところ「個人机で管理していたモノと、共有のモノが重複している」こと、モノが減らない理由としては「明確なルールがない」ことが原因だとわかった。

共用エリアのルールづくりによるレイアウト改善事例

 共用エリアはチームごとに分けて使用していたため、全体の効率が悪くなっていた。そこで、チームを超えた連携によって新たなルールづくりを行う必要があった。
 まず、備品を管理する総務部がレイアウト案を作成。他チームのリーダーと討議を行い、再び総務部がレイアウト案を作成した。その際に決められたルールは、「使う場所の近くに置くこと」「同じ役割・用途のモノは、同じ場所に置くこと」である。
 なお、スムーズな連携のためにWEB上での情報共有・打ち合わせの場を設けたことも有効であった。「事務局チャネル」では、管理職以上/リーダー・サブリーダー/全員の3つのチャネルを立ち上げ、管理内容や課題の共有を図った。また、リーダー間で「リーダーチャネル」を自主的に立ち上げて、共用エリアの情報共有や進捗方法の情報交換を行った。さらに、チャネルで解決できない課題は「実行委員会」での協議で解決を図った。

共用エリアの共有文具・宅配便の置き場および備品発注方法の改善

 文具は3チームで分散配置されていたため、合同でリストアップを行い、本社全体に開示してアンケートを実施した。その結果に基づき、使用されていないモノは処分し、特定の個人が使用しているモノは個人所有に変更した。

 宅配便の発送に使うモノの置き場も、同様に分散されていた。そこで、集荷場所に集めることとして、作業台の下にまとめる改善を行った。1カ所で発送作業が完結するようになることで、作業の導線が改善された。

 備品は、総務部が気付いたときに発注するため人により基準があいまいであり、在宅勤務などで気づかないまま「在庫なし」となることもあった。購入備品を改めて確認すると、除菌シート、来客用のお茶、コピー用紙などの発注頻度が高かった。これらは全員が使うモノなので、誰でも発注できるように、日付と名前を書いてFAXすれば手配が完了する「発注書」を作成・設置した。

 文具については、新たに「発注カード」を作成・設置した。発注カードの裏にあるQRコードを読み込むことにより、備品発注フォームに進み、必要事項を回答すると総務部に連絡が入る仕組みである。これら発注方法の改善は女性の一般職による発案であり、また役員・管理職自身での発注や発注依頼の声掛けが進み、在庫管理の効率だけでなくコミュニケーションの向上にもつながった。

発注カード

❷ 書類の2S活動の展開

 引越し時にキャビネットを35本から16本に減らしていたこともあり、もう減らないのではないかという声もあったが、書類をリストアップしたところ、不急書類が79%、不要書類が21%という結果となった。そこで、不要書類は処分、不急書類は倉庫移動(電子化できるものはPDF化)して、さらにキャビネット5本を減らすことができた。

 不要書類が多い理由も、「保管ルールが明確でないこと」が根本原因であり、対策として「分類体系表の作成および背表紙の統一」により、担当者だけに頼らない書類の管理を行うこととした。分類体系表とは、業務ごとに書類を分類して、保管(事務所)と保存(書庫)の期間を明確化したものである。また、背表紙を統一したことで、誰もが必要書類の30秒取出し、不急書類の3分取出しを実現することができた。

❸ 電子情報の2S活動の展開

 電子情報の2Sについては、なかなか削除が進まない状況であった。そこで、総務部全員で全フォルダを確認し、不要・不急を判定すると同時に、業務の棚卸も行い必要なデータを確認した。そして、新しくフォルダを作成して必要なデータのみを移し、それ以外のデータは確認のうえ削除した。ちなみに、削除に該当するものは、古い/重複/未完成/担当者不在といったデータである。

 このような活動で明らかになったのは、フォルダの作成ルールが不明確、担当者だけがわかっているという、まさに書類と同じ問題点の存在であった。そこで、担当者だけに頼らないデータ管理を行い、業務の属人化からの脱却を目指して、業務の効率化に継続して取り組んでいる。

 このようなフェーズ1の活動により、より多くの不要・不急品をなくした結果、業務インフラ整備が進み、個人の主体性やチームの協力体制が醸成されて意識(人)が変わり、社員全員のコミュニケーション向上やダイバーシティの実現によって職場が変わる、といった非常に大きな成果を生むことができた。

蟹江事業所の活動内容

 本社の2SX活動の成果を事業所へ展開することとなり、新たに5事業所が取り組むこととなった。また、本社の活動で女性の活躍が顕著でもあったため、事業所展開する際にも女性主導になるようにと「女性リーダー」を任命する運びとなった。

 今回、活動内容を紹介する蟹江事業所はダイナパックグループの中で唯一、軟包装を製造している事業所ということもあり、人事異動がもっとも少ないため、仕事が属人化しやすく、また固定概念が強い傾向がある、という不安材料があった。

❶ モノの2S活動の展開

 属人化からの脱却を目的に、まずは個人机の2Sから活動をスタートした。各自で机のモノのリストアップを行い、メンバーで話し合いながら必要・不急・不要を判定した。不要品は廃棄し、使用頻度の高いモノは手元で管理、使用頻度の低いモノは共有化とした。また、「姿置き」で取り出しやすさを実現した。

 さらに、社用車のETCカードの管理が部署間でバラバラだったのを一元管理するとともに、ネームタグを利用した車のキーの共有化にも取り組んだ。社用車1台ごとにタグを設置して、個人のネームタグを差し込むと車のキーが外れるという仕組みで、誰がどの社用車を使用しているのかが、一目ですぐにわかるようになった。

ETCカードの管理

❷ 書類の2S活動の展開

 チームで書類に関する問題点として挙げられたのは、書類によるスペースの圧迫、保管・保存に手間がかかる、探すのに時間がかかる、共有できないなどであった。その対策の1つとして、文書電子化変換ツールを導入することとした。書類の保管や共有などに関わる作業の大幅な削減が見込まれており、仕事の効率化はもちろん在宅勤務の実現など、新たな働き方も選べるようになる可能性が広がっている。

❸ レイアウト変更

 モノ・書類の2S活動で、人やモノのムダな動きが見えるようになり、リーダーを中心に部署間でキャビネットの交換・移動を実施した。その結果、ムダな動きがなくなり安全性が向上し、そして部署間のコミュニケーションもさらに向上した。

 活動当初は同事業所のリーダー全員が不安だったが、2S活動をきっかけに業務ペーパーレス化やレイアウト変更などを実現して、事務所全体の意識の向上(自ら考えて行動する)を実感しているという。

 2S活動に取り組んでいる蟹江事業所以外の4事業所でも、女性リーダーを中心に着実な成果を上げている。事務所2SX活動を展開する契機となった、齊藤社長の「2つの想い」が今後さらに大きな実を結ぶことにより、ダイナパックの企業としての成長につながっていくはずである。


担当コンサルタントのひと言

芝田 邦夫
JMAC シニア・コンサルタント

ダイナパックさんとは10年以上のつきあいです。生産部門の効率化として、設備を中心に自主保全のステップを地道に進めてきました。ロスが減って生産性が向上し、同時に管理スキルも向上。自分たちで考えて改善する人が増えました。事務所としては、業務にムダがあるので、現場のような活動を行いたいということになりました。齋藤社長さまからは「いきなり業務改善に入るのではなく、まず『汗を流す活動』として2S(整理・整頓)からスタートしたい」という提案がありました。汗を流す、すなわち自らが動いて変えていくということです。この基盤づくりで想定上の成果が出たので、推薦しました。

本稿は「第11回 ものづくり・現場力事例フェア」(2024年3月開催)で発表された「女性主導による事務所2SX(トランスフォーメーション)活動」の内容を編集部で再構成したものです。

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