「戦略的TPM」で新しいものづくり革新を―経営戦略とリンクする総合一貫型のTPMとは― No.3
連載第3回 「戦略的TPM(S-TPM)」で何ができるのか?
前回までのコラムで、おぼろげながらS-TPMが誕生した背景、その概要を把握していただけたかと思います。企業革新の新たなツールとして期待感があっても、実際にどうのようにして使えるのか、実感がわかないという方も多いでしょう。そこで、今回は多くの企業が戦略の策定と実践に苦戦している実態と、実際に使える戦略のあり方を紹介します。その戦略を実現するためにS-TPMがあることを、ぜひ理解してください。
勝てる筋書きとなる戦略が必要だ
現在多くの企業では企業理念などに基づいて組織価値の明確化が行われ、組織戦略の名の下で長期および中長期計画(戦略)が立案され、その具体的計画を年度目標と方針に展開しています。ただ、その進行は多くの企業で苦戦を強いられているようです。戦略が本来の使命を果たし切れていない面が多いからです。
もちろん、うまくいっている企業も少なくないはずです。だだし、それらの企業はこのコラムで説くカンどころをうまく実践している企業といえます。もし、貴社が苦戦しているとしたら、本コラムで取り上げるS-TPMの活用により、本当に役に立つ勝てる筋書きとなる戦略を立てていただきたいものです。
図1 総花的で良くない戦略展開例
では、勝てる筋書きとなる戦略とは、どのようなものでしょうか。その必要十分条件を明確にしてみましょう。
戦略の表現方法は多種多様、さまざまあってもよいと思いますが、その要件は次の4つです。
- ① 全体の目指す姿が絵に目に浮かぶようになっていること
- ② ①を実現する重点施策が、その実現を裏付けて納得できるよう構成されていること
- ③ ②の重点施策が目標値や実施計画によって実現できるように具体化されていること
- ④ その実施計画を確実に進行させる進捗管理手段やフォローができる組織体制になっていること
この4つを基本として踏まえて、より充実した形で戦略を展開していくことで、対象組織の全員が同じ目指す姿を共有することできます。重点施策が論理的につながっていれば納得しやすいし、その実行計画の遂行にも力が入り、計画遵守も確実なものとなります。
図2 勝てる筋書きが読み取れる戦略シナリオ例(戦略マップとして整理)
S-TPMで戦略シナリオを描く
勝てる戦略を描いていくと(または描き終わると)、S-TPMの各メニューの重点施策への寄与率がいかに高いかがわかってきます。ことによったら、成し遂げたい姿を描いているうちに、各メニューの重点施策目標値を再度ストレッチし直すこともあります。それくらい各メニューで支える内容が大きいことが理解できるのです。どのメニューのどのような重点施策をどこまで実施すれば目指す姿が実現できるか?--全員による共通理解とすべての活動の拠りどころとなるのです。
一例としての戦略を支える柱で支えた戦略シナリオを紹介します。
事務間接の全部門で工数半減を行い、活動時間を生み出す、その一方で個別改善によりOEE(設備総合効率)5倍相当の設備生産性を向上させ、その浮いた稼動時間で増産と新製品の開発、製造を行います。もちろん、の従来製品を扱う直接部門、間接部門でも15%程度製造原価を下げるように工数活用していきます。この企業では、OEE5倍で生み出した分の40%を増産に活用して、残りの40%を新製品に回し、残りの20%を余暇や研修などの原資に振り向けるシナリオを描いています。その他のメニューでもOEE5倍のストレッチにふさわしい世界No.1の内容を仕込んでいます。財務的なコストダウンに40%程度貢献して利益を確保しつつ、次の種まきや内部留保も蓄積していく筋書きになっているのです。
図3 戦い方も具備した、勝てるシナリオの全体像例
幸い、S-TPMのメニューには「事業価値&戦略革新」があります。経営戦略をどのように描けばよいのか苦戦してきた企業にとって、勝てる筋書きを描くためのテキスト(教科書)がやっと手に入ったたようなものですから、たいへん心強く感じてもらえると思います。ただ、勝てる筋書き(戦略シナリオ)は、一度描いたら終わりではありません。描いている最中でも、環境の変化や時代の変化にも柔軟に対応しなければならないのです。第1・2回で記述したようにS-TPMの使命は、刻々変化する経営環境下でもビクともしない「あるべき姿」と「その進め方」を『戦略シナリオ』で示し、さらなる高みへと導くことです。
S-TPMの「切れ」のある武器で新たなビジネスを
新しくなったS-TPMは第2回目に述べたように、ツール(武器)としてたいへん「切れ」があり、大きな成果の出るプログラムを具備しています。この武器で稼げる原資を生み、さらに成果を出す活動を実施していくべきです。
たとえば、間接部門の工数半減で捻出した優秀な人材の活動時間をフル活用して、これまでにできなかった新しいビジネスを実施していけば、多くの成果を生み出すことができます。筆者の支援していた営業機能を持たない工場でも、従来の製造製品の範疇でいくらでも新しい拡販余地が出てきました。行動していけば、その道は開けるし、それまでの本社の営業が活動しきれてない分野も多々あることがわかってきます。
図4 切れる武器の例(工数半減ツール:業務フロー掛図)
17のメニューから選択して重点活動を
連載第2回目で述べたように、JMACではTPMの基本8本柱を補完する企業ニーズの高い9項目を絞り込みました。さらに従来の8本柱を強化させて、計17本の経営支援メニューとして整理しました。
これらのメニューすべてを実施しなければならないということはありません。これらの中から自社に必要なメニューを自由に選択し重点活動していくことで、大きな経営成果を得られると確信しています。もちろん、従来の8本柱も魅力に富む内容へとリニューアル(進化と深化)していますし、実際にS-TPMを導入・実践している国内外の経営者からも好評を得ています。
次回は17メニューのトップバッターとして、①組織価値・戦略革新、②経営&指標管理革新を紹介します。
TPM革新センター シニア・コンサルタント
白濱 伸也(しらはま しんや)
1984年 JMAC入社。経営・生産・設備・間接領域におけるコンサルティング活動に従事。主要テーマは、経営戦略視点からのTPM展開支援、ビジネスプロセス革新、大幅コストダウン、リーンシックスシグマ展開支援、戦略的ISO9000&14000システム構築支援、生産システム設計、ヘルスケアコンサルティング、ビジネスモデル革新など。近年は、「17本のメニューに基づく新TPM(S-TPM)の推進者として提唱・普及に務めている。共著に『TPM成功の秘訣21』(JMAC)、『工場改善ハンドブック』(JMA)、『TPM展開ガイド』(JMAC)、『病院まるまる改善』(日本医療企画)、著作に『業務改革』(日本医療企画)、『儲ける開発』(JMAC)ほか多数、雑誌への寄稿も多数。