「戦略的TPM」で新しいものづくり革新を―経営戦略とリンクする総合一貫型のTPMとは― No.17

「戦略的TPM」で新しいものづくり革新を―経営戦略とリンクする総合一貫型のTPMとは― No.17

第17回 S-TPMメニュー解説編  教育・訓練  S-TPMによる強化

教育・訓練 ステップ方式で進める人づくり

 企業の発展は「人材の育成とその人材の持てる力を最大限に発揮させる」ことで達成されます。
 TPM活動は、経済環境の変化、技術の進歩、設備の高度化、管理の近代化に対応して発展し続ける企業体質づくりをねらいとしています。そのためには、設備や仕事に強い人材が必要です。たとえば、生産部門で毎日設備に接する人たちは「自分の設備は自分で守る」意識と実行力を身につけるべきです。保全部門は自社設備のプロとして保全技術・技能を身につけ、設備の設計・生産技術部門は業務機能を遂行するプロとして固有技術、管理技術、管理力を身につけておく必要があります。こうした人材がいなければ、TPM推進の組織やその活動は「絵に描いた餅」に過ぎません。
 しかし、実態はどうでしょうか。生産部門は狭い意味での製造作業のための運転だけに専念し、保全部門は頻発する故障や修理に追われて、設備保全に対する技術・技能のスキルアップ訓練をなおざりにしていませんか。結果的には、設備の故障やチョコ停、設備に起因する不良の発生で、稼動率の低下、生産性・安全性の低下を招くことになります。一方、設備の設計・生産技術部門では、生産現場の実態にそぐわない設備、使いにくく保全しにくい設備、不良や故障の発生が多い設備の立ち上げに悪戦苦闘している、という事態になっていませんか。
 これらは、生産・保全・技術・各部門の技術力・技能力・管理力が低いことの表れです。TPM活動は、このような悪循環を根本から断ち切るため、全員参加でPMを推進するものです。当然、参加・推進する1人ひとりの管理・技術・技能のスキルアップがなくては、成果を上げることはできません。
 人材の育成は、以下の5ステップ(図1)で進めてください。技術・技能の高度化に対応して、1人ひとりの能力開発と育成を考えた教育・訓練の体制づくりを進めます。TPMで大きな成果を上げている企業は例外なく、保全技能教育、管理技術教育に多大な努力を注いでいます。

図1 人材育成の5ステップ

図1 人材育成の5ステップ

第1ステップ:教育・訓練の現状調査確認による方針・重点方策の設定
 自社に合った教育・訓練の「基本方針」「活動のねらい」「活動の重点方策」を明確にして、次ステップ以降の活動につなげます。一人ひとりが、それぞれの分野でプロとして、他社に負けない真に設備に強い人間集団の企業になるためは、自社の将来に向けて、経営方針や戦略に必要とされる人材やスキルを明確にし、教育プランや達成度を確認していく仕組づくりが必要となります。スキルを洗い出す方法として、CUDBAS(クドバス:職業能力の構造に基づくカリキュラム開発の方法、A Method of Curriculum Developing Based on Ability Structure)が有名です。

第2ステップ:オペレーター・保全員のスキルアップ
 スキルアップは、以下のように進めていきます。
①教育カリキュラムの設定
②レッスンプランと教材の準備
③教室の準備
④教育の実施
 教育カリキュラムを設定する際は、自社の設備内容を考えて対象者をどのレベルまで能力向上させるか、具体的に何を教えるか、どれだけの時間をかけるかを検討してください。被教育者のニーズ・能力・個性・職種を考慮して、自社に適したスキルを身につけさせる方法を考えるのです。
 また、スキルアップの機会と現場活動をうまく連携させることで、仕事に直結するスキルをより効果的に体得することも可能です。自主保全のOPL(ワンポイントレッスン)を自職場に合わせた内容に作成するなどの伝達教育も効果があります。

第3ステップ:能力開発育成システムの確立とその展開

(1)自主保全第4ステップとの連携
 オペレーターの技能研修は自主保全の第4ステップ(総点検)に合わせて実施します。

(2)管理者の役割
 技能研修に必要な予算措置をとります。社内の技能研修を検討し、人づくりの重要性を強調することが大切です。

(3)業務遂行能力開発のための教育・訓練上のポイント
 教育の基本は「OJT」と自己啓発にあり、個人の成長を考えた育成計画を立てて進める必要があります。
 当該業務・職種について、必要知識・技能・資格などを明確にして、個人ごとに成長を考えた育成計画を立て、レベル評価をしながら進めることがポイントです。育成計画に基づいて、OJT、自己啓発、Off-JTなどを実施します。

第4ステップ:自己啓発環境の整備
 通信教育や外部セミナーの受講、関連教材の購入、資格の取得などの自己啓発を支援し、個人ごとの啓発テーマを設定した目標管理を展開するなど、自社に合った環境を整備してください。

第5ステップ:活動評価と今後の進め方の検討
 各職種、職階ごとに必要とするスキルが各人ごとにどう育成されたか、今までの活動を評価します。技術の刷新、新しい設備の導入、新しい管理方法に対応しつつ、さらに先取りできるスキルが求められています。自社の教育体系、教育課程、内容は、常に見直し・検討が必要です。

S-TPMで教育・訓練を強化

■教育・訓練の近年の困りごととその対策方向

 教育・訓練の近年の困りごと、対策方向の案を図2にまとめました。

図2 教育・訓練を取り巻く環境変化とその主な対応方向

図2 教育・訓練を取り巻く環境変化とその主な対応方向

 これらの困りごと、対策方向をグルーピングしてみると、
①成果および財務成果
②改善人材・育成や指導方法・改善手法教育
③改善活動のつながりや目標設定やマネジメント
に大別できます。
 総括すると、自主保全と同じように「知恵のある賢い展開」ができていないようです。コンサルタントや経営企画の担当者、経営者などの立場の人が、うまく展開できる方法を考える必要があります。
 これらのことから、洞察できることがあります。つまり、企業の教育・訓練の責任者にとって、目先の資格取得や新任業務の教育ニーズは明確になっていても、企業を発展させるための「真の教育ニーズ」を抽出できていないのです。ここに悩みの本質を見ることができます。図3はその構造をまとめたものです。

図3 必要な教育内容が定まらない構造の本質

図3 必要な教育内容が定まらない構造の本質

 要は、企業が「目指す姿」を明確に描き切れていないことです。内外の環境が激しく変化する中でも、将来有望なビジネスモデルや事業のあり方を明確に描けていれば、そのビジネス展開に必要な人材、スキルが自ずと定まってきます。もちろん、かつて経験したことがない経営環境の変化に直面し、すべての事業が右肩上がりの成長を見込める時代でもないことから、将来の事業を見通せないということもあります。確かに、誰もが納得できる「目指す姿」を提示するのが困難な時代です。そのため、学ぶべきことを見失いがちです。事業を伸ばすために何が必要かわからないという「迷いの森」に入っていることが、教育・訓練の迷走につながっていることは、否定できない事実と言えます。
 そこで、教育の原点に戻って考えてみます。教育の必要性をシンプルに考えてみると、以下のように整理できます。

教育の必要性(個人)
生きていくために必要なことを学ぶ

企業での教育の必要性
企業が利益(儲け)を上げ、存在意義を発するためのものを学ばせる

 このように教育の原点を捉えると、誰もが素直に納得できるでしょう。より豊かな生活を送るためにさまざまな夢を描き、夢を実現するために必要な学びの項目がいくらでも抽出できます。このシンプルな考え方で企業教育を捉えると、上述した必要性に素直に納得いただけるのではないでしょうか。
 ここで図4をもとに、利益を上げる(儲ける)ために必要な教育をもう少し深堀りしてみます。

図4 儲けのための構成要素

図4 儲けのための構成要素

 インプットを下げる(費用削減)ために、どんな知識が必要になるでしょうか。すぐに思いつくのは、原価管理の知識、材料費や労務費、経費などの財務知識などです。また製造プロセスを伴う製造原価が関与しているとすれば、製造プロセスやそこで使用されているさまざまなもの、人および設備に関する知識も必要です。このように、教育科目としてどんどん抽出できます。
 アウトプットを上げる(売上向上)のはどうでしょうか。現行商品の単価を上げる方策、あるいは販売数量を増やす方策、商品の魅力、価値を向上させる方策など、多種多様な知識と情報を駆使する方法を学ぶ必要があります。
 ここで言いたいのは、シンプルでわかりやすい表現で、やるべきことを明確にすれば、それを実現するための「学びの必要性」は必然的に浮上してくるということです。「現状」を認識できて「目指す姿」が定まれば、そのギャップが明確になり、ギャップを埋めるための活動項目がどんどん浮かんできます(図5)。これまでやったことがないことでも、それは新しく学べばいいのです。これらを参考に、自社・自部署・個人で納得できる「教育の必要性」を明確にして、学びのシナリオを描いてください。

図5 目指す姿の明確化で浮上してくる活動項目(教育科目)

図5 目指す姿の明確化で浮上してくる活動項目(教育科目)

■戦略的TPMとしての教育・訓練の強化事例

①人に寄り添う真の教育支援システム
 前項で、企業での教育の必要性ついて詳しく述べておきました。ここでは個人について述べておきます。
 企業と同様に個人でも「目指す姿」を明確にして、それに向けた努力が必要になるわけですが、努力させるだけでなく、本当に学ぶ人の側に立った支援も重要です。支援する仕組みを考えることで、個人も企業もハッピーになれる教育システムが見えてきます。それは学ぼうとする人に寄り添う「真の教育支援システム」です。
 IT化が進み、教育実施やその管理の仕組みも進化しています。学習しやすいようにシステマティックにカリキュラムを分け、個々の理解度を把握することも可能になりました。
 教育カリキュラムが受講者にとって適切かどうかを受講前に評価し、受講時には細かな内容ごとに理解度を確認し、理解不足や学習モレがないようにします。受講内容の習得率、学習後の活用率も管理し、学習効果の最大化を図ります。
 図6は、このシステムの概要です。ニーズにマッチした教育コンテンツを受講者のレベルに合わせて提供し、学習中の理解度を刻々と記録し、マッチ度や理解度、教育コンテンツの評価を同時に進行させます。学習そのものに直接メスを入れ、最大の学習効率と効果の実現を目指すシステムです。

図6 人に寄り添う真の教育支援システム

図6 人に寄り添う真の教育支援システム

②XR技術活用の教育
 XR(Cross Reality Extended Reality)とは、下記のVR、AR、MR、SRの総称で、エンターテインメント、産業、教育の場での活用が進んでいる技術です。

VR(仮想現実:Virtual Reality):仮想世界(デジタル空間)に実際に自分がいるような体験ができる技術。例)過去に起きた労災をすべての人に疑似体験をさせることで危機感を共有する。

AR(拡張現実:Augmented Reality):現実世界が主体で、現実世界にCGなどでつくるデジタル情報を加え、仮想現実を反映(拡張)させる技術。例)スマホの位置情報を使って、画面内に現実世界の風景と仮想現実のキャラクターをいっしょに映し、あたかもその場(現実)にゲームのキャラクターがいるかのような体験ができる。

MR(複合現実:Mixed Reality):仮想世界(デジタル空間)を主体として、現実世界を重ね合わせて体験できる技術。例)仮想空間に現実世界の位置情報を計測した3Dデータを重ね合わせて表示。製造業や建設・建築業などで、自由な角度からの観察とスムーズな事前検証が可能に。

SR(代替現実:Substitutional Reality):現実とは違う事象を現実であるかのように認識させる技術。例)現実世界に同時に過去の映像を映し出し、過去の出来事を今目の前で起きているかのように錯覚させるなど。

 XR技術を活用すれば、次のようなことが可能になります。たとえば、ダブレットなどの画面上に実際の現場の設備を映し、その上に重ねて仮想空間上の画像や文字を表示したり、音声によるナビガイドを再生したりすることで、わかりやすい作業指示が可能となります。インタラクティブ(双方向の対話)機能で、その作業に必要な知識を即座に得たり、熟練者とコミュニケーションしたりすることで、非熟練者でも正しい作業が可能になります。
 こうした機能は教育にも存分に発揮されます。現実や仮想現実・拡張現実などを駆使した教育コンテンツにより、体感的で印象的な学習が可能になります。
 以下にまとめた現時点でのXRのメリット・デメリットを把握して、今後の導入検討の参考にしてください。

【XRのメリット】
・一方通行の知識習得型から行動が伴い身体で覚える体験型の教育にすることで、視覚や体感にも訴えて印象的な記憶として定着が可能となる
・能動的に個々人の能力に合ったペースで学習でき、高い学習効果が得られ、細かな学習記録を残すことができる
・いったん教材を用意すれば、いつでも、どこでも、誰でも、何度でも学習の機会を得ることができる

【XRのデメリット】
・XRを使った教育コンテンツを利用できる機材がまだ高価である
・教材開発手法が簡易な方法で標準化されていないため、教材コンテンツ開発に工数や費用、特別なスキルが必要となる
・XRを使った教育のやり方が多々あるため、まだ汎用的で安価な教育システムになっていない

 このように、XRの活用はこれまでにない教育成果をもたらす可能性が十分にあるが、対応する教育コンテンツは、まだ容易につくれる段階にはきていません。これまではいかに優れた動画教材や教育資料があっても(先輩社員の貴重な経験談なども)、再生・閲覧できる場が限定されていましたが、
XR技術の登場で現実の作業空間内に、ディスプレイを通して作業支援のために画像、文字、音声を重ねて表示できるようになりました。作業を学ぶ側は、作業手順だけでなく、カン・コツもタイムリーに受け取ることができます。時間や空間による制約がなくなり、没入感のある効果的な研修に変革する機会となります。今後の技術の動向をにらみつつ、導入に向けて挑戦してみてはいかがでしょうか。

コラム:保全大学をつくろう!
 現在、各企業はTPMに関わる技術向上、および自主保全や個別改善のスキル向上を目的として講師や研修会場を確保し、教育体制を維持することがかなり困難になっています。まだ構想の段階ですが、多くの方々から賛同をいただいているので、「保全大学」のコンセプトを紹介します。今後、多くの賛同者と協賛企業の協力を仰ぎながら実現していきたいものです。
 優れた講師はすぐには育たないものです。長年の実践と多くの勉学や研鑽が必要です。しかし、せっかくその道の大家と言われるほどの腕前になったとしても、教える場や機会がないということもあります。受講者(新人、異動で新たに配属された人)の数は経営状態、事業や会社の方針で増減し、必ずしもTPM関係の教育を体系的に教育できる状況にないことも少なくないのです。そうなると、講師自身の異動、研修室の転用などで、自社の教育体制が弱体化することになります。要は、必要なときに必要な人員にいつでも教育できることが求められているということです。1社だけで実現するにはむずかしいので、複数の企業や公的機関などと連携して、講師や会場を必要に応じて活用できる「保全大学」の創立が望まれます。ユーザーには固定費負担減だけでなく、ハイレベルな講師陣による受講、あらゆるニーズに対応する実習教材の活用など大きなメリットをもたらし、安心感と定評ある教育を実現できると考えています。

■保全道場の開設

 日本の製造業はコスト優先(現状は地産地消の目的もあるようですが)でグローバル展開を促進した結果として、世界と戦う術を徐々になくしてしまった感があります。もはや戦う術は残っていないのでしょうか。いいえ、成すべきことが、まだ残されています。それは、これまで培ってきた技術や技能、ノウハウを後世に伝え「高品質のものづくり」を維持し、発展させていくことです。これが唯一無二の方法と考えます。
 ところが、その培った技術や技能を伝承する教育・訓練の体制づくりができているかと問われると、「ノー」としか言えないのが現実です。
 図7は、JMACのクライアントから相談を受けた内容を整理したものです。これらを要約すると、やはり教育・訓練の体制が脆弱であると結論づけることができます。

図7 2017年度 企業訪問から得られた相談事のまとめ上位11項目

図7 2017年度 企業訪問から得られた相談事のまとめ上位11項目

 そこでJMACでは2017年から、保全道場の建設を支援し、ものづくりの技能のレベルアップを目的としたコンサルティング・サービスを開始しました。
 教育・訓練の手段としての保全道場の考え方を先に述べておきましょう。教育・訓練を効果的かつ効率的に進めたいとすることは、誰もが考えることです。これを実現する場が保全道場です。道場開設に必要な会場設営、工具類、実習用機器などの準備支援(ハード面)、道場のカリキュラム、動画教材作成、インストラクター養成などの支援(ソフト面)の両面をねらってスタートした、新たなコンサルティング・サービスです。

●保全道場運営支援コンサルティングの基本的な考え方

 JMACが提唱する保全道場運営支援コンサルティングの基本的考え方を以下に整理します。

【第1段階:企画支援段階】
 教育・訓練の目的に応じた方針や目的を決めて、これに即した教育・訓練のカリキュラムを選定するきわめて重要な段階です。ここの出来が教育・訓練体制づくりの成否を左右します。

【第2段階:建設支援段階】
 教育・訓練の内容が決まったことを受けて、いよいよ保全道場を建設する段階です。さまざまなノウハウが必要となり、建設の支援コンサルティングを提供します。

【第3段階:運営支援段階】
 やることが決まり、やる場もでき、実践する段階です。社内で伝承できる内容と社外の支援が必要な内容とに分けて、教育・訓練を実践しながら徐々に教育・訓練体制づくりを進める最終段階です。

 企業が目指す教育・訓練体制づくりとは、この3段階を着実に実施することにほかなりません。以下、各段階の詳細を説明しておきます。

●保全道場運営支援コンサルティング第1段階:企画支援段階

 第1段階の目的は「教育で何を達成するか」、いわば教育の原点を明らかにすることです。この段階で重要なことは、「会社のために何に貢献できる人材を育てたいか」を明確にすることです。これもとに、対象者・期間・方法・内容・場所などを具体化し、企画に落とし込みます。
 だだし、何の知識もないままに企画しても、失敗します。そこで、JMACは下記の7ステップを1つひとつクリアしながら進める方法を提唱しています。ここではステップの詳細は割愛しますが、ねらいを整理しておきします。

1ステップ:製造ラインの全体概要把握
自社のモノづくり方法や生業など全体を理解するステップ

2ステップ:加工形態の理解
自社製品の加工工程やサービス内容を理解するステップ

3ステップ:加工の原理・原則の理解
正しく製品がつくられる仕組みや顧客満足の仕組みを理解するステップ

4ステップ:教育に必要な項目と関係資材の抽出
正しく製品がつくられるために必要なスキルを洗い出すステップ

5ステップ:作業の3ム低減
効率的・効果的なものづくりやサービスを行なうために徹底した改善を行なうステップ

6ステップ:作業の標準化
誰でも容易に速く良いものができる仕組みやサービスができるような標準化を進めるステップ

7ステップ:教育・訓練の試行実施
これまで積み上げてきた教育スタイルを試験的に試してみて、課題があれば改善して教育・訓練体制づくりに邁進するステップ

 ちなみに、この7ステップは実際に数社を支援する中で各社の困りごとを改善に導いたノウハウでもあるため、さまざまな業種にも対応できる汎用性の利くものになっています。

●保全道場運営支援コンサルティング 第2段階:建設支援段階

 育成したい人材像、教育内容を明確になったら、この第2段階から建設支援に移ります。教育の場となる道場そのものを設置するということです。永続的に活用できる道場として、その有効性には最大限考慮します。そのためには、場所・道具・講師・テキスト含む資料など、モレなく準備して第3段階にスムーズに移行できるようにします。具体的には、保全道場の建設に必要な室内レイアウト計画、電源と空圧源の計画、壁面利用の計画、施工業者との整合などを踏まえつつ道場建設へと進みます。また、必要となる教材、たとえばカットモデル、専門図書、ワンポイント・レッスンシートなどを準備します。さらに、備品類の棚卸しをして、たとえば電流電圧計、トルクレンチ類、ハンダごてなどを準備、確保しておきます。

●保全道場運営支援コンサルティング 第3段階:運営支援段階

 すでに、どのような人材を、何人、誰が、いつまでに、どんな方法で、何を使って、どこで教えるか、などが明確になっています。第3段階では実際に教育を実践します。
 図8は、JMACが支援している第3段階でのカリキュラムの例です。

図8 保全道場 第3段階でのカリキュラムの例

 図8 保全道場 第3段階でのカリキュラムの例

 保全道場による教育・訓練の実施は、会社の利益に貢献する人材の育成に直結します。つまり、道場とは企業の人材育成という目的を効果的かつ効率的に達成する手段(場所)と言えます。緻密な計画に基づいて育成された人材による会社への貢献度合いは、かなり大きいものになります。

 こうした人材育成のメリットとして、

  • 現場活動の基本である、やる気・やる腕・やる場が達成される
  • いつでも・誰でも利用できるため、教育の機会均等を実現できる
  • 新入社員からベテラン作業者まで、社員のモチベーションアップにつながる
  • テキストや講師の内製化で外注費がコストダウンできる
  • 教えることは自身の向上であり、会社全体のレベルアップにもつながる
  • イキイキと働くことのできる社員が育成される

などです。このほかにも、企業ごと現場ごとに多くのメリットを見いだすことができるでしょう。

■教育・訓練の重要性の再確認と得られる効果

 図9は、教育・訓練の活動期間とその効果をグラフにしたものです。企業にとって教育・訓練は必要不可欠な投資であり、それによって成長した人材は次々と新たな効果を生み出します。逆に人の成長がなければ、それまでの投資が水泡と化してしまいます。
 図に示されたとおり、効果の“盛衰が生じる分岐点”まで人を育て成長させることが、きわめて重要です。そのためには、各企業に即した教育・訓練体制をつくり上げることが求められています。その有効な手段が保全道場です。

図9 教育・訓練の活動期間とその効果

図9 教育・訓練の活動期間とその効果

 あらゆる活動や取り組みの前に、枕詞に「その業務を遂行するために教育を受けた最適な人材による」をつけてみるとわかりやすいと思います。たとえば、計画保全とは「その業務を遂行するために教育を受けた最適な人材による」故障低減、部品寿命延長への取り組み、予備品管理、保全費管理、予知保全体制の確立などを行うこと、と表現してみます。こうすると、現場での活動ひいては企業活動を推進するうえで、すべて教育・訓練が前提条件となると理解できるはずです。「教育・訓練なくして企業活動は成り立たない」と言い切ることができるはずです。

 「高品質のものづくり」を現実のものとするために、道場という手段を用いながら、その企業が求める人材を育成するという流れをつくることができれば、その企業の未来は明るいと断言できます。JMACの支援を有効に活用しながら、自社に即した教育・訓練体制を築き上げることで、明るい将来へと立ち向かうロードマップを描いていただければ幸いです。

■教育・訓練のレベル別のねらい

 教育・訓練の進化レベルに合わせた、レベル別のねらいの一例を図10にまとめました。自社の弱点を強化したり、目指すものを設定したりしてレベルを選択して、自社にマッチした教育・訓練を展開してください。詳細は割愛しますが、レベル別魅力価値向上のための教育も含めて設定すれば、大きく展開の道が見えてくるはずです。

図10 各レベル別のねらい

図10 各レベル別のねらい

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著者プロフィール

TPM革新センター シニア・コンサルタント
白濱 伸也(しらはま しんや)

1984年 JMAC入社。経営・生産・設備・間接領域におけるコンサルティング活動に従事。主要テーマは、経営戦略視点からのTPM展開支援、ビジネスプロセス革新、大幅コストダウン、リーンシックスシグマ展開支援、戦略的ISO9000&14000システム構築支援、生産システム設計、ヘルスケアコンサルティング、ビジネスモデル革新など。近年は、「17本のメニューに基づく新TPM(S-TPM)の推進者として提唱・普及に務めている。共著に『TPM成功の秘訣21』(JMAC)、『工場改善ハンドブック』(JMA)、『TPM展開ガイド』(JMAC)、『病院まるまる改善』(日本医療企画)、著作に『業務改革』(日本医療企画)、『儲ける開発』(JMAC)ほか多数、雑誌への寄稿も多数。

TPM革新センター チーフ・コンサルタント
場家 孝(ばっけ たかし)

2012年 JIPMソリューションに入社。TPMコンサルタントとして、さまざまな製造業を支援。前職は、住宅総合資材メーカーと医薬品製造業に勤め、TPM推進事務局をはじめ、製造現場、生産管理、物流、品質管理、品質保証、開発などの管理監督職を経験し、現職に至る。企業時代の経験を活して、各社にTPM活動支援を実施。支援は、国内をはじめタイ、インドネシア、トルコ、ブラジルなどの工場がある。

TPM革新センター チーフ・コンサルタント
肆矢 勝彦(よつや かつひこ)

1992年 日本プラントメンテナンス協会(JIPM)入職。地域担当として、セミナー企画・運営、研究会企画・運営、またコンサルティング支援やTPM優秀賞事務局を通して、さまざな製造業と関連を持ち、その発展に尽力。前職の食品製造業で製造、営業を担当し、ものづくりの大切さやクライアントとの関係性を学び、その経験を生かして、常に顧客の立場に立つことに努めている。21年から現職。

TPM革新センター チーフ・コンサルタント
反町 貞雄(そりまち さだお)

1992年 日本プラントメンテナンス協会(JIPM)入職。JIPM出版事業部で「プラントエンジニア」誌広告、書籍・通信教育・ビデオ・ツール企画営業担当。JIPMソリューションを経てJMACへ。中部、北陸、関西、中国・四国、九州オフィスのセンター長として各社にTPM活動、コンサルティングプランナー支援を実施。21年から現職。