「戦略的TPM」で新しいものづくり革新を―経営戦略とリンクする総合一貫型のTPMとは― No.4

連載第4回 S-TPMメニュー解説編 「組織価値&戦略革新」「経営&指標管理革新」

 第1~3回で新しいTPMのフレームワークを紹介しました。従来のTPMの良さを踏襲しながら、新しい次元に踏み出そうとしていることを理解していただけたのではないでしょうか。しかし、もっと具体的に深く理解するには、その根幹となっている活動の重点的なコンテンツとなるメニューを把握しておくことが不可欠です。そこで今回からは、追加された新しいメニュー順に紹介していきます。S-TPMの骨格が把握でき、自社がそれで何を実現していくべきかが、わかってくるかと思います。
 今回は、トップバッターとして組織価値&戦略革新、経営&指標管理革新です。

組織価値&戦略革新

■全体を貫くべき組織価値(使命)の追求

 右肩上がりの時代、従来の生産性を大幅に改善できれば、TPM関連の賞を受賞できて、それなりの評価も得ることができました。中には受賞そのものが目的化してしまったり、本来の組織や企業がどこへ向かうべきかを見出せなくなったりしても、売上の向上で付加価値を産出することができたのです。
 ところが経済状況が長年にわたって低迷するようになると、従来の延長線上の活動では大きな成果は出せないことに直面した。そこで、低成長期のTPMのあり方や、コストダウンに効くTPMなどの工夫・模索が続くようになりました。多様な経営環境でもブレずに、経営上の難題に立ち向かっていくためには、まずは自社、自組織、自グループが本来の組織価値を見つめて強化しなければなりません。そのうえで競争力のある戦略シナリオのもとで圧倒的な顧客満足と競争力を発揮して、ダントツの地位を確立する必要があります。

■戦略を「絵に描いた餅」にしないために

 組織価値とは図1のように位置付けることができます。

図1 組織価値(使命)の位置づけ

 つまり、それぞれの企業において、自らの企業理念に基づき、社会的に果たす使命や存在意義が明確で、全従業員に良く理解され、行動指針として顧客へ向けて実践されていれば、当然その企業の顧客からの評価はかなり高いといえます。しかし、理念・組織価値(使命)・目指す姿(ビジョン)を明確に定めきらず、多くの経営資源がバラバラな方向のまま活動をしている企業も少なくないのが実態です。また、定まっているにしても、その重要性を理解されずに「絵に描いた餅」のままで活用されていない企業も、まだまだあります。また、素晴らしい理念と組織価値を明確に出せたとしてもその業界で、比類なき1位(ダントツ)でなければ、少し上手の強豪ライバルとの熾烈な競争に明け暮れて疲弊し、経営資源をムダに使い本来のありたい事業スタイルを貫けない企業もあります。実に「もったいない」ことです。
 なぜこのような事態に陥るのでしょうか。JMACの「S-TPM研究会」で研究した結果、うまくいっていない企業では、もろもろの活動がベクトルの合わない状態になっていることがわかりました。そのことが、ねらった経営成果が上がらない大きな原因だったのです。もちろん、しっかり活動すれば、そこそこ成果は上がります。しかし、上がった成果を本来の財務成果や企業競争力につなげられないのです。ベクトルが合わないために、活動のアウトプットをさらに上位の目標に生かし切れない弱さが残ってしまうのです。

■ありたい戦略シナリオの描き方

 組織価値を強化するために、TPMもしくは重点施策を戦略的に実施することで、どのような成果物を刈り取るのか、どいのようなシナリオで進めるのか、などは最初の段階でしっかりと定めて活動を実施することをおすすめします。
 参考までに、ある食品会社での戦略的TPM展開シナリオを紹介します(図2)。この事例はものづくりの目指す姿を構造的に表すため、VSM(Value Stream Mapping)というビジネス価値の流れを見える化する手法で整理したものです。

図2 戦略的TPM展開シナリオ例

 この展開シナリオを画餅にしないように、さらに具体的にドリルダウンした例が図3です。ここでは戦略をどのような目標値で、どの活動単位で、いつまでに実現するかを割り付けて具体化しています。
 あくまでこれは一例です。実際には、すべての活動について、どの活動をどの目標値に割り付けるかを実施して、どのような経営成果を実現するのかゴールを明確にしたシナリオを描くべきです。

図3 戦略的TPM展開の具体化ドリルダウン例

経営&指標管理革新

■良い循環サイクルを回す経営管理革新とは

 経営管理とは収支だけを管理することでありません。もちろん、基本となるベースとして、収支が健全であることがいちばん大事であることに間違いはありません。経営管理については多くの解説が必要となりますが、このコラムではその重点を意識した活動に絞って紹介します。

 図4にあるように、全体の収支を損益計算書(P/L:Profit and Loss)にまとめたものを活用すると理解が早い。

図4 経営収支を意識した活動の位置づけ

 P/Lは通常、貸方を右、借方を左にしますが、製造部門の活動は費用面を下げる活動が多くなるので図4では左右を逆にして使いやすくしています。中身は、収入を増やしつつ、費用を下げる、それによって大幅な収支の改善もしくは、利益の増大を図る、というわけです。また、周辺にあるのはバランススコアカードの4つの視点で、「D 学習と成長」で学んで成長することで「C 業務プロセス」が変化し、「B 顧客」の喜びをもたらし、「A 財務」の状態が向上する、ことを表しています。このような良い循環サイクルを回していくことが非常に大切です。
 また、財務諸表の費目を意識した具体策案として、
・売上を増やす施策
・変動費を下げる施策
・固定費を下げる施策
を図5に例示しておきます。

図5 売上をあげ、費用を下げる具体策案

 このようにどの費目を対象に活動すべきかを、自社の財務諸表を見ながら、実施策を練る必要があります。参考までに図6に、勘定科目ごとに費目をターゲットにした例を示しておきます。

図6 費目を意識したターゲットをセットの例

■目標を必達にする指標管理革新

 「測定なくして管理なし」---管理では適切なKPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)を設定して確実にそれを達成しなければなりません。だからといって達成しやすい目標を選んではいけません。「目標は2分の1、10倍を設定し、3割4割は当たり前、1割、2割は誤差のうち」を合言葉に、ストレッチした目標に向かって、これまでに隠れていた火事場の馬鹿力、潜在力をフルに発揮するように設定すべきです。
 では、目標必達を実現するにはどうしたらよいでしょうか。そのためには、目標を具体的に設定して、達成のための具体的な実行計画を立て、その進捗を丁寧に管理していくことが重要です。
 たとえば、図7のように業務グループのコスト削減ツリーを使って、コストダウンを実施していく場合を考えてみましょう。いうまでもなく、テーマを費目や部署や担当ごとに細かく分けて目標を設定し、その実現のための実行計画書をしっかり立てて、順調に推進していくことが大切です。

図7 業務グループのコスト削減ツリー

 初めてのテーマの場合、実施上・推進上のネックになることを事前に課題バラシして(課題を細かく分解して)、難易度を低減しておきます。こうした準備にも関わらず、3回のレビューで未達が確定しそうであれば、担当者への支援者をあてがうなど、施策の変更も含めて目標を必達するためのありとあらゆる手段をとるようにします。
 図8は、高さと面積両面から成果の予測管理を図示したものです。月次の達成目標(高さ目標)だけでなく、累計での面積目標でも成果の予測管理を確実に行うのが必達の秘訣です。これを採用すれば、今後の目標管理の概念は、間違いなく変わることでしょう。

図8 高さと面積両面での成果予測管理

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著者プロフィール

TPM革新センター シニア・コンサルタント
白濱 伸也(しらはま しんや)

1984年 JMAC入社。経営・生産・設備・間接領域におけるコンサルティング活動に従事。主要テーマは、経営戦略視点からのTPM展開支援、ビジネスプロセス革新、大幅コストダウン、リーンシックスシグマ展開支援、戦略的ISO9000&14000システム構築支援、生産システム設計、ヘルスケアコンサルティング、ビジネスモデル革新など。近年は、「17本のメニューに基づく新TPM(S-TPM)の推進者として提唱・普及に務めている。共著に『TPM成功の秘訣21』(JMAC)、『工場改善ハンドブック』(JMA)、『TPM展開ガイド』(JMAC)、『病院まるまる改善』(日本医療企画)、著作に『業務改革』(日本医療企画)、『儲ける開発』(JMAC)ほか多数、雑誌への寄稿も多数。

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