「戦略的TPM」で新しいものづくり革新を―経営戦略とリンクする総合一貫型のTPMとは― No.14

第14回 S-TPMメニュー解説編 管理・間接部門の効率化 S-TPMによる強化

管理・間接部門の活動 全員参加の意義

 TPMの基本理念には、全員参加による参画経営・人間尊重が重要であることが謳われています。これをもう少し噛み砕くと、生産システムのライフサイクル全体を対象とし、「災害ゼロ・不良ゼロ・故障ゼロ」を達成するために、生産部門を始め、開発・営業・管理等の全部門にわたり、トップから第一線従業員にいたる全員が参加し重複集団活動によりロスの未然防止を行い、ロスゼロを達成するということです。したがって、開発や営業、管理などの管理・間接部門も、TPM活動の大きな意味を持つ対象範囲になっています。

■管理・間接部門の体質改善の必要性

 ただ、管理・間接部門はその対象が広範囲で、効果的な改善手法が浸透していないことが多く、製造現場に比べて改善のメスが入りにくかったという事情があります。そこで、まずは組織活動を体質面から効率化していく改善思想を浸透させる必要があります。
 管理間接部門の体質改善の必要性を認識するには、
①総原価の60%以上を握っていると言える(管理・間接部門の意思決定次第で総原価変革が可能である)
②本来営業責任で製品が売れなくても、収益向上対策を製造部門のコスト低減などに振り、逃げられる環境にあり、本来の使命を全うしないまま改善が進まないなどの体質になりやすい
③仕事の目的にあいまいな部分があり、管理が目的化している面がある(製造部門に比べ仕事の付加価値が見えにくく、管理のための仕事になっていることもある)
という3つの視点から見ると同意されやすくなります。

■管理・間接部門の対象範囲

 管理・間接部門とは、生産に直接関わる生産部門以外のすべてのスタッフ部門を指します。管理・間接部門のTPM活動は、このスタッフ部門が担当します。
 図1に示すように、多くの業務が対象となります。ただし、⑨保全は計画保全、②研究開発から⑥生産準備までは開発管理、⑩検査・品証は品質保全で受けて、管理・間接部門の対象ではなく、それだけで独立した活動になります。しかし、管理・間接部門の活動そのものは、②研究開発から⑥生産準備および⑩検査・品証も他の柱活動も実施しながら、並行して進めていくべきです。

図1 管理間接部門でのTPM活動対象例

図1 管理間接部門でのTPM活動対象例

■管理・間接部門の3つの役割をTPMで充実・拡大

 こここで管理・間接部門の役割について整理しておきます。図2に示すように、3つの役割で生産システムの効率化を支援しています。

役割その1:ロス極少化生産への製造支援
 TPM活動を管理・間接部門は、生産システムをもっとも効率良く、かつ極限追求するために、その専門的な機能、いわゆる知識データを有機的に情報加工して、ロスを極少化した生産ができるように製造部門に対して適切な支援を行います。

役割その2:競合他社を凌駕するコスト競争力
 競争変化の激しい経営環境を認識して、これに適応して生き抜くために、自らの業務機能の充実やコスト効率を高め、さらに競合他社を凌駕する変化対応力を身につける施策を講じます。

役割その3:属人化した事務からの脱却
 属人化した事務体質から脱却し、ロス・ムダのない事務の標準化、ストレスを感じない事務環境を実現するなど、すべての仕事の基本姿勢となる基本体質づくりを自ら行います。

図2 生産システム効率化における管理・間接部門の役割

図2 生産システム効率化における管理・間接部門の役割

■価値工学に基づいた活動体系

(1)価値向上のための活動体系
 管理・間接部門の活動は、図3のように価値工学(V=F/C)に基づいて体系化されています。

図3 価値工学に基づく管理間接部門のTPM活動体系

図3 価値工学に基づく管理間接部門のTPM活動体系

 TPMは部門の存在価値(value)を高める活動であり、仕事そのものであるという意識を持ってください。TPMとは存在価値を高めるという目的の手段です。具体的には、TPMで事務ロスを改善して事務工数を削減し、さらに事務の業務を標準化して仕事の信頼性向上を目指します。しかし、単に事務工数の削減だけではありません。F(ファンクション)側の活動となる管理・間接部門の業務機能を充実および拡大すること、すなわち価値創造に貢献することを最終目的としています。

 管理・間接部門の改善活動は、誰もが取り組みやすい事務の効率化に終始する傾向があります。そのような活動では、業務そのものを効率化できたとしても、業務の本来機能の再構築や経営戦略実現のための業務機能の充実・拡大は実現できません。業務の効率化に終始するのではなく、TPMは経営ビジョン実現のための業務機能の充実・拡大、さらに他社との差別化を実現させる業務機能の改革をねらっていることを理解してください。

(2)機能・付加価値の向上
図3に示した機能・付加価値を向上させる方策の例を紹介します。図4は、機能・付加価値を増やす活動例として、「原価構成比の改善」のテーマ抽出の全体像です。このような活動によって原価構成比(利益率の向上)の改善という付加価値を得ることができます。

図4 機能・付加価値を増やす活動例:「原価構成比の改善」のテーマ抽出全体像

図4 機能・付加価値を増やす活動例:「原価構成比の改善」のテーマ抽出全体像

(3)コストの低減
コスト低減の方策の活動例を2つ紹介します。

活動例1:フローチャート分析

 業務分析などでよく使われるフローチャートを使った活動例です(図5)。
表記法はさまざまな種類がありますが、大まかには上から下へ仕事の流れのブロック図を矢印でつないでいきます。この図のように、場合によって行き先が変わる矢印の分岐や図の横に所要時間や問題点を追記できるので、文章よりも直感的に仕事の流れを理解しやすいのです。

図5 コスト低減の活動例1 フローチャート分析によるエフ付け「売上処理」

図5 コスト低減の活動例1 フローチャート分析によるエフ付け「売上処理」

 現状の業務をフローチャートに記載すれば、機能の重複や問題点の払拭、所要時間を少なくする改善などの検討に使えます。それぞれの改善案がまとまったら、総合案に集結させて、改善後のフローチャートを完成させます。実際に運用で試して、改善を繰り返すことで新しい仕事の流れが完成します。

活動例2:巻き紙分析

 間接部門の業務改善で定評ある分析手法として定着してきた「巻き紙分析」の活動例です(図6)。
仕事の流れ順に使用する帳票類を模造紙に貼付して、その業務の実態を洗い出します。業務に携わらない人が見ても、何が処理されているかが一目でわかるようになります。ただし、業務が複雑だったり、流れの分岐が多くなったり、業務の工程が長くなると巻き紙も膨大になり、業務の全容をつかむのが難しくなることもあります。巻き紙の長所短所をうまく活かして、他の分析も組み合わせて改善を進めてください。

図6 コスト低減の活動例2 巻き紙分析

図6 コスト低減の活動例2 巻き紙分析

■管理・間接部門のTPM活動例

管理・間接部門のTPM活動例を以下に示します。今まで述べてきたことを総合してねらいと活動項目を設定しています。やるべきことと、やれることをよく吟味して、自社の経営に貢献できる活動項目を選択してください。

1.管理間接部門でのTPM活動のねらい
 ①機能ロスゼロの実現
 ②効率的な事務所づくり
 ③生産部門へのサービス支援機能発揮

2.事務間接部門の自主保全ステップ活動(例)
 ①事務所の初期清掃
 ②業務の棚卸し
 ③問題点の改善・対策
 ④標準化
 ⑤業務の自主管理活動の推進

3.プロジェクト活動による管理間接部門の個別改善(例)
 ①決算日程の短縮
 ②物流改善
 ③購買外注の効率化
 ④生産管理システムの革新

S-TPMで管理・間接部門のTPMを強化

 今回も前半で管理・間接部門の活動を再確認していただけたかと思います。そのうえで柱ごとに近年の困りごと、その対策の方向、およびS-TPMとしての強化事例を紹介します。

■管理・間接管理部門での近年の困りごととその対策方向

 近年の困りごとと対策方向案をまとめてみると、①現状把握から効率化、②人材育成や教育、③環境および仕組みや成果実現、④戦略やマネジメントの4つに分類できます(図7)。

図7 管理・間接部門を取り巻く環境変化とその主な対応方向

 図7 管理・間接部門を取り巻く環境変化とその主な対応方向

 ホワイトカラーの生産性について、日本は非常に低いと言われています。海外も含めて管理・間接部門の業務体系、業務量を正確に把握して、うまく機能する手法が少ないせいか、理想的な改善活動を展開できないと思われます。
まずは、現状の業務体系を整理したうえで、個々の業務に対して、個人ごとにどれだけの時間を割いているか、タイミング情報も含めて業務量を把握することが大事です。この情報をベースにして、業務項目が経営方針や経営戦略と整合しているか、適切な従事時間で業務量が配分されているか、などを確認してください。
上司があまり重要とは思っていない業務に、部下が時間をかけていることも少なくないようです。そうした誤解を避けるためにも、業務量を調査して事実情報を共有しながら部下と上司で、その業務に必要な適切な時間について話し合うべきです。部下が上司の期待する以上に過剰な品質でやっていたり、上司が業務の障害を知らず、思ったより手間がかっていたりすることが判明すれば、問題解決へ一歩進展することになります。

 困りごとの真相は「現状の業務実態が把握できていない」「経営理念や経営戦略と業務に整合性がない」ことです。把握できていないと、効率化の手段も活用できません。また、経営理念や経営戦略と整合性のない業務を改善しても、効果は限られています。こうした問題意識を経営層が自覚していないと、「効率化のメス」も入りにくくなります。ただ、昨今のコロナ禍でワークシェアリングや財務改革の必要性が高まってきたため、「効率化のメス」に関心を持つ組織が増えてきました。

■S-TPMとしての管理・間接部門の強化事例

①経営方針・戦略と業務実態の一貫したバリューアップの実現
 業務実態が経営ビジョン・経営方針にマッチしていれば、強い組織になるわけですが、組織の規模が大きくなると、フレキシブルな組織変更をしにくくなります。こうした実情を認識しつつ、図8に示すいくつかの視点を活用して、経営ビジョンを実現できる組織および業務実態を目指すべきです。

図8 経営方針・戦略と業務実態一貫バリューアップの実現構造

 図8 経営方針・戦略と業務実態一貫バリューアップの実現構造

 図の最上位にある「I.経営一貫力バリューアップの実現」では、経営理念や経営ビジョンに基づく経営戦略までがスッキリ整合が取れる状態になっているかを見直し、変更の必要があれば適宜修正していきます。もちろんそのもとで、事業の再設計を考え、組織も見直ししていく必要があります。また、全階層を対象にその部署および部下のマネジメントが目標と実態のギャップが埋まる活動を確実に実施できているかを確認します。もしそのマネジメントがうまく機能していないようであれば、すぐに見直しをします。
 これらを実施しないまま中位層の「II.業務再設計・プロセスリーンの実現」で各部門だけの業務改善を行っても、本来の目的に合致した改善にならないことがあります。上位層を見直せば、必要でない業務も多々見つかるはずです。ですから、先に上位層の方針との整合性をとって根本の再構築をしたうえで、中位層の業務改善に取り組んでください。ただ、実際には上位層からの革新は強烈なトップダウンがなければ実現しにくいので、中位層の改革を併行しながら、勢いがついたところで再構築に着手せざるを得ないことが大半です。
 さらに下位層の「III.職場環境・人材・ビジネスの変革」もたいへん重要です。人事制度やキャリアプラン、職場環境およびワークスタイルも含めて、自社にマッチしつつ、働きやすい職場づくりを構築しながら、生産性の高いオフィスワークの実現にチャレンジしてください。

②機能から見直すオフィスワーク(事務間接)革新
 ①で述べた上位層の改革が進んだ後も、中位層の業務体系の構築は悩ましいことが多いのです。
 図9に示すように、本来、業務システムの設計とは、
・与えられた与件を前提に、部門の使命を明確にする
・その使命を果たすにはどんな機能が必要か考える
・その機能を果たす業務を構成する
・その業務を実現するプロセスに落とし込む
・各プロセスをオペレーションに分解していく
ということから構成されるべきです。

図9 業務システム設計のあり方

図9 業務システム設計のあり方

 しかし、実際には、このような機能論から展開されることはほぼありません。必要なアウトプットを得るために必要となるアクションを従来の仕事の展開方法や応用をもとに実施し、それで目的がそこそこ得られれば満足してしまうのです。そのやり方が最適かどうかが議論されることはありません。類似のアウトプットが要求されれば、過去に実施したケースの応用で済ましてしまおうということです。革新するからには、やはり機能論から見直してスリム化を定期的に実施してもらいたいものです。

③職務分析から課業の再配分
 部門別に職務と職場目標が明確に定まっている場合、そのとおりに職務を遂行する課業(割り当てるノルマ、仕事量)になっているかどうかは、職務記述書などの記載を確認します。「目的に合致した該当業務」の職務を全うしているかをしっかり確認することが大切です。
 図10に職務分析による課業の再分配の流れを示します。部門別に全うすべき職務を明確にしながら、職務を実現する課業になっているか確認することがポイントになります。この方法は、職務という拠り所が明確になった状態で確認、見直しができる点が優れています。
 課業の担当者ごとに配分量の確認、見直しができるので、高度なスキルを必要としない業務を中堅もしくは若手に担当してもらい、ベテランの業務負荷を減らすなど、これまでより柔軟な課業再配置を実現できます。

図10 職務分析から課業再配置の流れ

図10 職務分析から課業再配置の流れ

④フロー図による工数半減
 図11に示すように、現状の業務をフロー図にして、業務単位別に所要工数を列記します。これを業務全体に展開し、総時間をベンチマークにして各業務単位に所要工数が半減になるような改善案を出していきます。この手順を繰り返して合計すると全体が工数半減になります。

図11 工数半減の事例

図11 工数半減の事例

 図11はイベント業務(非定形の業務が多い)の例で、業務の総時間は合計で1020分でしたが、個別に半減以上を目標に改善を積み重ね、改善後は480分で実施できるようになりました。削減率は52.9%です。
このような工数半減の改善技術は、間接業務に限らず、直接業務の半減にも適用できるので、効率化の大きな武器になります。

⑤RPAやAIの活用
 今やオフィスワーク革新にICT(情報通信技術)の活用が不可欠です。従来から繰り返し性の高い業務はシステム化されてきましたが、そうでないさまざまな業務のシステム化には無理な点も多かったのです。その際は表計算ソフトなどに入力し、関数や論理式およびマクロ機能(複数の操作をまとめて必要に応じて呼び出す機能)を工夫して作業の効率化を図っていました。
近年はRPA(Robotic Process Automation)などの技術が開発されて、表計算ソフトの範囲を超えて、他のソフトやブラウザなども含めて、同じ操作をロボットのように繰り返し実施できるソフトウェアも出てきました。RPAは大いに活用すべきです。ただし、少しでもパターンが違うと止まってしまうので、まずは業務を徹底して標準化してからRPA化に移行しないと動かなくなって導入失敗になってしまいます。
 図12にRPAを適用する対象を選定する方法を示します。

図12 RPA適用対象の選定方法

図12 RPA適用対象の選定方法

 図では、ある部門の業務を業務量ごとに並べています。繰り返し性が高く、業務量が多いのが「A」の項目です。Aの業務でアナログ的な部分は、できるだけデジタル化すべきですが、当面は柔軟性のある社員で対応していきます。またAの部分でデジタル化できるところは少しずつシステム化していくべきです。また、アナログ的な仕事の中でルールが明確な業務はアウトソーシングに移行できます。
 RPAやAIを適用しやすいのは、ルールが定まっていて、デジタルデータが扱える作業です。たとえば、図のように4分割のマトリクスを作成し、マッピングして右下に該当する業務を集めます。その中から繰り返し性が高く、投資対効果の出そうなものを選びます。
 さらにRPAの適用について、図13をもとに具体的に解説しておきます。

図13 RPAの適用事例

図13 RPAの適用事例

 この事例では「各課へ調査を依頼し、情報を収集し、集計、分析、報告書作成・提出」といった業務を対象にしています。まず、多くの業務の業務体系を作成し、図13で述べたような手順で、①業務体系からRPA化に適した対象業務を選定し、選定した業務に対して②業務の詳細把握を行います。具体的には図14のフロー図のように仕事の流れをまとめるとわかりやすくなります。
 次に③RPA化対象範囲の設定です。対象業務がすべて自動化に適しているわけではなく、一部は毎回、多少のイレギュラーがあったり、変更が予定されたりするとその部分はRPAが停止してしまう可能性が高いので、そこは除外します。このケースの場合、資料収集から分析までを対象に絞っています。本件の報告書作成では、考察などで人が文章を考える部分が重要と判断し、RPAから外しています。もちろん、報告書によってはパターン化できる部分にRPAを適用できることもあります。
 さらに資料収集から分析の間でも、さまざまなランダムな情報が集まったり、定形化されない飛び込み対応があったりします。こうなると対応しきれないので、④業務標準化の推進では資料収集から分析を標準化して、できるだけ少ないパターンで処理できるようにしておくことです。RPAは処理パターンごとにシナリオを作成しなければならならいので、シナリオの数だけシナリオ作成費用がかかります。したがって、できるだけ業務を標準化しておき、同じ機能なら1つのシナリオにまとめるとコストダウンができます。標準化ができたら、⑤RPAシナリオの作成を行い、それから⑥RPA運用実施という手順になります。
 AIを活用した改善事例を紹介します。図14に、AIの活用用途、活用場面での問題や課題、活用方法を整理しました。

図14 AIの活用事例

図14 AIの活用事例

 ここでは「議事録の自動作成」を中心に解説します。会議ではよく議事録を作成します。しかし、会議の録音内容を後から何度も聞き返しながら文章に起こすことは、たいへんな労力と時間を要します。そこで録音内容をもとに文字起しをAIにさせるとかなりの時間削減になります。。もちろん、正確に音声が文字にならないこともありますが、文字化した文章でおかしいところだけを人が修正すれば、人手をかける部分もかなり少なくなるはずです。従来から音声をコンピュータが聞き取り、文字に変換することができましたが、精度が悪く、何度も音声を聞き直して修正する手間がかかり、あまり効率が良い方法とは言えませんでした。ところが最近はAIが学習し、変換精度が向上したため、十分に貢献できるレベルにまでになっているようです。今後はますますAIの活用事例が増えていくはずです。繰り返し性が高い業務でのAI活用をぜひ目指していただきたいと思います。

⑥ビジネス5S
 オフィスワークに5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の考え方が有効であることは、多くの企業や組織でも知られています。事務用品や什器、事務所内の5Sにとどまらず、書類や情報、業務の5Sと共有化により、多くの成果が報告されています。
 ここではさらに発展させて、人材の5Sやビジネスの5Sに適用していく考え方を紹介します(図15)。

図15 ビジネス5Sへの道

図15 ビジネス5Sへの道

 人材の5S・共有化を考えてみます。最初のSの整理は「捨てる」が要点となります。これは、「今あるものをきちんと棚卸しして、個別に見る。そのあり方や数、劣化の程度を見極めたうえで、不要なものは捨てる」という考え方です。これをそのまま、何の配慮もなく人に適用すると、人をもの扱いしているように捉えられるので、細心の注意が必要です。
 人材の5Sは、人のスキルを棚卸し、対応している業務にスキルが適切か否かを、以下のように判断します。

【スキル余剰】
 スキルが担当業務に対して十分過ぎて上回る場合です。スキルの低い人に業務を移譲する必要があります。

【スキル不足】
 業務に対して十分なスキルが不足している場合です。担当しても良いがスキル上位者の監督のもと、仕事の最終確認ができる状態で完了を確認してから次工程にアウトプットを渡すべきです。

【スキル合致】
 スキルが担当業務に適切もしくはやや上回る場合です。これくらいの状態がベストです。

 人材5Sでは、スキル余剰とスキル不足が段階的に整理(見直し)すべき対象になります。そこにムダやムラが内在しているからです。人材育成やJOBローテーションがうまく機能していない場合、すぐには整理できない部分もありますが、長期計画を立てて定期的に見直し、ムダやムラをなくしていくべきです。

 2つめのSの整頓は「並べる」が要点です。対象業務と保持しているスキルを明確に「並べ」て、見える化して管理します。

 3つめのSの清掃は、「拭く」が要点となります。不具合が見つけられるように、すべての業務と人材スキルを拭くように点検していくことです。

 4つめのSの清潔の要点は「磨く」です。3つめのSで不具合を見つけるだけでなく、さらに良い形を求めて最適なものを「磨き」続けることです。

 5つめのSの「しつけ」の要点は「守る」です。「磨き」あげられた形を外乱があっても「守り」続けていくことが大切です。

 これらは、そのまま、ビジネス(商流、商取引)にも当てはめることができます。良い取引で確実にねらう利益を確保するために、すべてのビジネス(取引)を棚卸しして、整理「捨てる」、整頓「並べて」見える化管理し、清掃「拭き」ながら、不具合を正し、理想的な形に清潔「磨き」上げていき、それを維持継続できるように「しつけ」守るような展開が理想的なビジネス5Sです。

■管理・間接部門の活動のレベル別のねらい

 図16は、管理・間接部門の活動の進化レベルに合わせたレベル別のねらいの一例です。自社の弱点を強化したり、目指すものを設定したりするときに、このレベルを参考に自社にマッチした管理・間接部門の活動を展開してください。
 レベル1では事務用品・書類・情報・業務・ひいては人材・ビジネス5Sを目指します。レベル2では強力なオフィスワーク革新方法と業務遂行方法の完全化を目指します。レベルで3はもの・情報・仕事・人・ビジネスの理想効率化へと邁進してください。
 詳細は別の機会に譲りますが、レベル別の魅力価値向上のための理想的オフィスワークのあり方を追求していけば、大きく展開の道が見えてくるはずです。

図16 管理・間接部門の活動のレベル別にねらうもの

図16 管理・間接部門の活動のレベル別にねらうもの

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著者プロフィール

TPM革新センター シニア・コンサルタント
白濱 伸也(しらはま しんや)

1984年 JMAC入社。経営・生産・設備・間接領域におけるコンサルティング活動に従事。主要テーマは、経営戦略視点からのTPM展開支援、ビジネスプロセス革新、大幅コストダウン、リーンシックスシグマ展開支援、戦略的ISO9000&14000システム構築支援、生産システム設計、ヘルスケアコンサルティング、ビジネスモデル革新など。近年は、「17本のメニューに基づく新TPM(S-TPM)の推進者として提唱・普及に務めている。共著に『TPM成功の秘訣21』(JMAC)、『工場改善ハンドブック』(JMA)、『TPM展開ガイド』(JMAC)、『病院まるまる改善』(日本医療企画)、著作に『業務改革』(日本医療企画)、『儲ける開発』(JMAC)ほか多数、雑誌への寄稿も多数。

TPM革新センター チーフ・コンサルタント
場家 孝(ばっけ たかし)

2012年 JIPMソリューションに入社。TPMコンサルタントとして、さまざまな製造業を支援。前職は、住宅総合資材メーカーと医薬品製造業に勤め、TPM推進事務局をはじめ、製造現場、生産管理、物流、品質管理、品質保証、開発などの管理監督職を経験し、現職に至る。企業時代の経験を活して、各社にTPM活動支援を実施。支援は、国内をはじめタイ、インドネシア、トルコ、ブラジルなどの工場がある。

TPMコンサルティング事業本部
チーフ・コンサルティングプランナー
佐々木 卓也(ささき たくや)

2002年 日本プラントメンテナンス協会入職、JIPMソリューション経て現職。日本プラントメンテナンス協会入職時より海外でのTPMコンサルティング新規開拓をグローバル企業、ローカル中大規模企業を対象として担当。スペイン、ドイツ、トルコ、タイ、ベトナム、インドネシアと広い地域での新規顧客開拓を行っている。

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