締結編:【第47回】ボルトの締付け力

 ほとんどの金属材料は外力を受けると、それに相応した応力が発生し変形して、ひずみが生じます。下図は、軟鋼の応力—ひずみの関係を表したものです。ボルトの締付け力に関係するので、各点の特性を述べます。

応力ひずみ

図は各種資料をもとに編集部で作成

・0〜A点:応力とひずみが比例する範囲で直線的に変化する範囲(A:比例限度)
・A〜B点:応力とひずみは比例する範囲ではないが、応力を取り去るとひずみがなくなる範囲(B:弾性限度)
・B〜C点:応力を取り去っても永久ひずみとなって、ひずみが残る範囲(C:上降伏点)
・C〜D点:応力が増加しないのに材料の伸びだけが進行する範囲(D:下降伏点)
・D〜E点:応力の増加がわずかでも伸びがいちじるしく増加してE点で最大応力となる範囲(E:引っ張り強さまたは極限強さ)
・E〜F点:E点から材料がくびれはじめ、ついにF点で破断する(F:破断点)

 ボルトの締付けで軸力が発生するのは、ボルトの弾性限度内で原形に復帰しようとする力によるものです。適正な締付け力は、次の関係式で表すことができます。

 Q=As(0.6〜0.8)σs〔kgf〕
    Q:ボルトの初期締付力(軸力)〔kgf〕
    As:ボルトねじの有効断面積〔㎟〕
    σs:ボルト材料の降伏点〔kgf/㎟〕

 同式は、ナットの締付け時に発生する応力が、その材料の降伏点の60〜80%とすることを指しています。まとめると以下のようになります。

  • ボルト材の降伏点を超えるような締付けをしない
  • 振動や衝撃などの外力が加わっても降伏点を超えないこと
  • 締付けが小さすぎると、ゆるみやすくなる
  • ボルトの弾性限度内で使用する



<ひとくちメモ> ボルトの強度区分4.8が表すこと

一般に広く使用されている鉄製ボルトの、強度区分4.8の「4」は引っ張り強さがその100倍の400〔N/㎟〕であること。「8」は引っ張り強さ400〔N/㎟〕の8割までは伸びたボルトが元に戻ることを示しています。したがって、400×8=320〔N/㎟〕が締付け限度となります。



<こんなときどうする> 自動車のタイヤ交換時の締付けトルクは?

急な自動車のタイヤ交換時の締付けトルクを考えてみます。一般に、普通車の適正トルクは90〜120〔N・m〕、軽自動車で80〜100〔N・m〕といわれています。そこで、タイヤ交換工具のL字レンチの端の方を握り、自分の体重を強く乗せるように掛けて締め付ければOKです。


仮に、体重が50kg、レンチ長さが20〜25cmとすると、

 50×(20〜25)=1000〜1250〔kg・cm〕(100〜125〔N・m〕)

となり、普通車の適正トルクになります。締め過ぎるとボルトの折損、緩いと締付け不足となります。一段落したら、正規トルクかきちんと確認しましょう。



◆Q&Aで理解度チェック!

Q1 応力とひずみが比例する範囲で、直線的に変化する限度を比例限度という
Q2 ボルト刻印4.8の「8」は、引っ張り強さを表す

A1 〇:題意のとおりです。
A2 ×:「8」は、引っ張り強さの8割までは伸びたボルトが元に戻ることを表しています。


■福田洋市
◆専門分野:設備保全支援
◆TPM:個別改善、自主保全、計画保全、品質保全、教育訓練、管理間接、安全・衛生・環境

輸送機器メーカーにて製造、保全、安全衛生等の部門で多くの資格を取得しながら経験を積んだ後、工場長として会社統合、工場再編成、生産統合、海外工場支援指導等にあたる。さらに、生産アドバイザーとして生産システム整備や若手人材育成などに携わり、2022年より現職。豊富な実務経験に基づいた、保全技能や改善手法の教育をベースとする人財育成に手腕を発揮している。

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