【NO.18】ロス別の改善ステップ⑫ 編成ロス
編成ロスとは
編成ロスは、ライン作業における各工程(作業者や設備)の生産速度に差があるために発生するバランスのロスです。ライン作業とは、一連の作業を複数の工程に分割し、各工程は独立して同時の作業を行い、モノは一定のスピードで完成方向に流していき、一定間隔で完成品が産出される作業形態です。
この連続した工程(作業者や設備)の作業バランスが悪いと、生産速度の遅い工程に引っ張られ、他の工程が手待ちの状態になってしまいます。結果として作業遅れが発生し、標準工数より多くの工数を投入することになりロスが発生します。
編成ロスの改善では、各工程で行われている作業内容をすべて洗い出し、その順序や役割を見直すことで、各工程の負荷が極力均一になるように配分し、アンバランスをなくします。
編成ロス改善のステップ展開
下表に編成ロス改善の7ステップ展開を示します。以下に、各ステップの内容を説明します。
編成ロスのステップ展開
ステップ | 項 目 | 活動内容 |
ステップ1 |
対象の選定 |
・モデル品種の選定 ・目標の設定 ・サブテーマの設定 |
ステップ2 |
作業の測定 |
・ネック工程の把握 ・編成効率の算出 ・作業改善必要性の確認 |
ステップ3 | 作業順位の確認 | ・先行順位図の作成 |
ステップ4 | 改善案の抽出 | ・ラインバランシング ・不具合の抽出と改善案の立案 ・改善案のランク分け |
ステップ5 | 改善の実施 | ・作業手順の変更 ・レイアウト変更 |
ステップ6 | 効果の確認 | ・効果の確認 |
ステップ7 | 標準化 | ・作業手順書の作成 ・スキルアップ訓練 ・維持の仕組みづくり |
ステップ1:対象の選定
編成ロスは生産品種ごとに異なります。そこでステップ1では、ロスの大きい生産品種を改善対象として選定するところからスタートします(ステップ1の進め方は、作業ロスと同様です)。
(1) モデル品種の選定
対象の選定は下記の手順で進めるとよいでしょう。
- 各品種の1サイクルの実際作業時間(サイクルタイム)を測定します。複数品種が混流している場合は、出現頻度の上位から測定を行っていきます※
- 測定した実際作業時間とそれぞれの標準時間との差、いわゆるロスを算出します
- 各品種のロス時間に月の生産量を掛けると、品種別の月当たりのロス時間が算出できます。このロス時間をパレート図で表すことにより、改善の優先順位がわかるようになります
※受注生産のように多品種が混流で流れる場合は、編成ロスよりも、品種ごとのサイクルタイムが大きくバラつくことによる品種間の手待ちロスの方が問題になることがあります。そうした場合は、作業改善によりサイクルタイム差を極力なくし、「バイパス方式」「バトンタッチ方式」などの生産の仕組み(方式)で対応することも合わせて考えましょう。
(2) 目標の設定
職場のロス改善の目標を設定します。作業能率、削減ロス工数・生産性といった工場・部門の方針や職場の課題からの必達目標があれば、それを目標にします。
(3) サブテーマの設定
各品種のロス時間のパレート図から問題の大きいものを選定し、サブテーマとして設定します。
目標を達成するためには、サブテーマをいくつゼロにしなければならないかを明確にし、それぞれのサブテーマをいつまで、どこまで改善したいのかという目標の3要素(何を、どの程度[目標値] 、いつまでに[期限])を明確にして活動を進めます。
ステップ2:作業の測定
ステップ2では、ステップ1で選定したサブテーマにおける各工程の作業時間を測定します。各工程に割り当てられた作業時間から、改善すべきネック工程はどこなのか、どの程度均等になっているかを把握します。
(1) ネック工程の把握
改善対象製品の作業をビデオで撮影し、各工程の1サイクルの作業を測定します。また同時に、要素作業に分割して各単位作業の時間を測定します。
工程ごとの作業時間のバラツキと、ネック工程を明らかにするとともに、作業分配の内容を明確にします。この作業の分配状態を表す方法に、下図のようなピッチダイヤグラムがあります。これは、各作業のサイクルタイムと各工程の遊び(手待ち)を示しています。
ピッチダイヤグラムと編成効率
(2) 編成効率の算出
現状の作業がどの程度均等になっているか、ラインバランスを把握します。ラインバランスとは、ラインを構成する各工程が分担する作業時間のバランスのことです。効率の良いラインでは、各工程の作業時間が極力均一になるように作業を分配されています。このラインバランスのレベルを表す指標が編成効率です。工程数にもよりますが、一般的に90%以上であればまずまずバランスの取れたラインと考えてよいでしょう。
また、ラインバランスによって発生しているロスをバランスロスといいます。編成効率・バランスロスは、以下で計算します。
編成効率=
Σ(各工程のサイクルタイム)/(ネック工程のサイクルタイム×工程数)
バランスロス率=1 − 編成効率
(3) 作業改善の必要性の確認
各工程の作業時間の平均が標準としている時間より大きい場合、編成効率を上げるだけでは目標を達成できません。そのときには作業改善を行い、作業時間そのものを短縮しなければいけなくなります。
まずは、
①各工程のサイクルタイムの合計
②標準時間×工程数
の時間を比較し、作業改善の必要性を確認します。
①≧②の場合は、どれだけラインバランスをうまくとっても、サイクルタイムが標準時間より大きくなってしまうので、最低その差の作業時間は短縮する必要があります。
また、逆に作業時間に余裕がありすぎる場合は、多少の改善で工程数を減らせることも考えられるので、本来必要な工程(人員)数も以下の計算を行って確認しておきましょう。
必要人員数=
Σ(各工程のサイクルタイム)/標準時間
ステップ3:先行順位の確認
ネック工程の仕事を前後の工程に割り振るためには、それが可能かどうかの判断が必要です。そのためには、作業の順序や制約を理解しなければなりません。
対象製品を加工・組み立てる手順は1つとは限らず、多くは複数の方法があります。また、そこには技術的制約から加工の先行関係(先に加工[取付け]しなければいけないもの、後からでもできるものなど)が存在します。
そこで下図のように、この手順と先行関係を表したネットワーク図(先行順位図)を作成し、整理しておくとよいでしょう。とくに多くの作業(組み付ける部品)があり、取付けの優先順位が決まっている複雑な製品の場合は、重宝します。
ステップ4:改善案の抽出
先行関係と目標値(標準時間)から、試行錯誤的にネック工程のラインバランシングを行い、抽出された改善案に対し、予想効果(編成効率)費用・期間・変動への対応度などから評価をし、改善案として決定します。
改善の考え方は、作業分担の見直しによる編成功率の向上です。標準時間をオーバーしているネック工程の内容を単位作業または要素作業に分割し、オーバー分の作業量を作業時間の短い工程に合併して編成効率90%以上のバランスの適正化を図りましょう(下図)。
作業分担の見直しによる編成効率の向上
ステップ5:改善の実施
ステップ4が主に作業時間を中心とした編成であるのに対して、ここでは空間的な制約条件も合わせて考慮して、具体的に設備や作業空間を配置します。この場合、治工具や運搬機器の作成なども編成内容に合わせて行います。
(1) 作業手順の変更
改善案では作業者に従来と異なるやり方で作業してもらうことになるので、作業の不慣れから、苦情が出てくることが予想されます。しかしこれはあくまでも試行ですから、最初からうまくいくはずはありません。コツを覚えるまで何度も訓練することが大切です。
(2) レイアウト変更
作業時間を中心に最適編成を検討してきましたが、空間的な制約条件が問題であることもあります。設備・治工具・部材の配置を考慮して具体的にレイアウトを検討します。
また、単に工程間の作業時間の平均化を図るだけではなく、作業時間のバラツキや生産数量や生産品種の変化、欠勤などによる配置人員減に応じてフレキシブルに対応するための、弾力性のある作業空間の確保や工程間にバッファ(仕掛かり品)の設置などの対策およびライン長・ライン形状(直線、U字型など)なども検討しましょう(下図)。
ライン長・ライン形状の検討
ステップ6:効果の確認
改善前と比べたときの生産性、作業能率、編成効率などの時間的な評価を行い、目標どおりの成果が出ているかを確認します。
ステップ7:標準化
作業時間のバラツキが激しい工程では、工程の作業難易度と作業者の技能度が合うように配置する工夫も必要です。したがって、製品ごとの最適人員配置を考えて、スキル管理は必須になります。個人別に必要な技能とレベルを明確にして目標を設定し、教育訓練を行うとよいでしょう。
次回は「スキルロス」を解説します。
●著者プロフィール
大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント
日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。
鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント
大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。