【NO.17】ロス別の改善ステップ⑪ 作業ロス
作業ロスとは
作業ロスとは、製品1個をつくる際の基準となる標準時間に対して、実際の作業ではより多くの工数を費やしている過剰工数のロスを言います。つまり、現状の作業には、標準どおりに行えないムダ・ムラ・ムリが含まれているということです。
作業ロスは、これらの問題点を顕在化し、そのそれぞれに対して改善を行います。
作業ロス改善のステップ展開
作業ロス撲滅の7ステップ展開を下表に示します。以下に、各ステップの内容を説明します。
ステップ | 項 目 | 活動内容 |
ステップ1 |
対象の選定 |
・モデル品種の選定 ・目標の設定 ・サブテーマの設定 |
ステップ2 |
作業の測定 |
・作業の測定 ・作業のモデル化 |
ステップ3 | 測定結果のまとめ | ・作業組合わせ票へのまとめ ・フローダイアグラムの作成 |
ステップ4 | 改善案の抽出 | ・改善発想技術によるアイデアの抽出 ・改善案のランク分け |
ステップ5 | 改善の実施 | ・自部門でできる改善の実施 ・他部門を巻き込んだ改善の実施 |
ステップ6 | 効果の確認 | ・効果の確認 |
ステップ7 | 標準化 | ・作業手順書の作成 ・スキルアップ訓練 ・維持の仕組みづくり |
ステップ1:対象の選定
作業ロスは標準時間と実際の作業時間との差なので、生産品種ごとに大きさが異なります。そこでステップ1では、各製品の作業時間を測定してロスを算出することで、改善対象とする生産品種を選定します。
(1) モデル品種の選定
対象の選定は以下の手順で進めるとよいでしょう。
① 各品種の1サイクルの実際作業時間(サイクルタイム)を日報などで大まかに測定します。品種が多い場合は、出現頻度の上位から測定を行うとよいでしょう
② 測定した実際作業時間とそれぞれの標準時間との差、いわゆるロスを算出します
③ 各品種のロス時間に月の生産量を掛けると、品種別の月当たりのロス時間が算出できます(下図)
品種別月当たりのロス時間
このロス時間をパレート図で表すことにより、改善の優先順位がわかるようになります(下図)
品種別月当たりのロス時間のパレート分析
(2) 目標の設定
職場のロス改善の目標を設定します。作業能率、削減ロス工数・生産性といった工場・部門の方針や職場の課題からの必達目標があれば、それを目標にします。
(3) サブテーマの設定
各品種のロス時間のパレート図から問題が大きなものを選定し、サブテーマとして設定します。
目標を達成するためには、いくつのサブテーマをゼロにしなければならないかを明確にし、それぞれのサブテーマについて、いつまでに、どこまで改善したいのかを明確にして活動を進めます。
ステップ2:作業の測定
ステップ1では、改善対象を見つけるための大まかな時間測定でした。ステップ2では、作業手順と内容を明確にして、要素作業ごとの作業時間を明確にします。
作業分析の分析対象は作業者ですから、より一層の作業者に対する気遣いが必要になります。とくに分析されているという意識が強くなると、ふだんとは異なる作業内容になったり、作業スピードが上がってしまう場合もあります。事前に予備観測を十分に行って、分析されることに慣れてもらいましょう。
(1) 作業の測定
改善対象の作業をビデオで撮影し、1サイクルの作業を要素作業に分割して各単位作業の時間を測定します。
作業を分割する際には、以下のポイントに気を付けて行いましょう。
① 主作業と付随的な要素は分ける
主目的の要素:組み立てる、溶接する、分解する、吹き付ける
付随的な要素:材料を取る、部品を置く、機械の側まで歩く
② 規則的作業と不規則的作業は分ける
規則的作業:1作業または1工程のサイクルごとに発生する要素
不規則的作業:1作業に必要であるが、規則的または基本的な要素作業のサイクル間隔に比べて規則性に乏しい間隔で発生する要素
③ 観測可能な大きさで分割する
④ 作業者要素と機械要素は分ける
(2) 作業のモデル化
複数回測定した作業の結果の多くは、手順・時間値がバラついています。そこで、現状値のモデル化をして、それを基準にして改善していきます。
手順のモデル化は、基本的に熟練した作業者が平均的に行った作業手順をモデル化するとよいでしょう。時間のモデル化は、一般的には平均値になります。
ステップ3:測定結果のまとめ
作業を測定しただけでは、改善のポイントがまだ見えません。作業測定の結果を帳票にまとめて見える化することにより、問題点に気付きやすく、わかりやすくなります。
(1) 作業組み合わせ票へのまとめ
作業測定で得られたデータをもとに、作業・移動・手持ち・検査の各要素工程数、所要時間、移動距離などを集計して作業組み合わせ票にまとめます(下図)。
作業組み合わせ票
見える化することによって、個々の作業項目の測定時間を標準時間と比較したり、作業の内容と時間から適正かどうかを判断して問題点や改善の重点を明らかにすることができます。
改善すべき作業
・手待ち ・探す ・取置き ・考える・積み重ね ・持替え ・二度手間 ・歩く ・話す ・持ち上げる ・手を伸ばす ・しゃがむ・立つ ・振り返る ・付け合わせ ・数える ・確認 ・開閉 など |
また、改善による効果を評価するためにも、得られたデータは整理しておきましょう。
(2) 流れ線図の作成
作業プロセスの動線・経路を、レイアウトの平面図上に流れ線図で表現します。このチャートは動きの問題点やレイアウトの改善を行う際に改善案の着想を得るのに有効です。
ステップ4:改善案の抽出
まとめられた作業項目に対し、改善発想技術(ECRS、5W1Hの原則、動作経済の原則(下図)などを適用しながら改善のアイデアを出して、改善案をまとめます。
動作経済の原則
まずは、付加価値が付いていなくても現状必要とされている付随作業に着目し、その項目1つひとつに対して、排除できないか、減らせないか、小さく・短くできないかと、E → C → R → Sの順で考えてみましょう。主作業をなくすのは費用がかかるなど困難な場合が多いので、C → R → Sで減らせないか、簡単にできないかという観点から、自分たちでできる改善案を中心に考えてみましょう。
ここで出した改善案が思ったとおりの成果に結び付くとは限りません。改善案はひとつだけでなく、複数考えておくほうがよいでしょう。
ステップ5:改善の実施
改善発想技術から抽出された改善内容を実施します。
ステップ6:効果の確認
改善結果が、当初設定した目標に対してどうだったのかを定量的に判断します。目標に達しなかった場合には、次の改善サイクルを回します。
ステップ7:標準化
改善した結果が従来の姿に戻らないように、標準作業や標準時間へ反映させて標準化に努めます。
また、改善後の姿を維持していくためには、作業者1人ひとりに対する訓練も不可欠です。作業時間だけでなく、品質や安全にも着目して標準化を図りましょう。
次回は「編成ロス」を解説します。
●著者プロフィール
大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント
日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。
鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント
大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。