【NO.16】ロス別の改善ステップ⑩ 人の効率化を阻害するロス

人の効率化を阻害するロスとは

 人の効率化を阻害するロスとは、作業者の動作、作業方法、スキル、レイアウト、情報の流れのまずさに起因している作業工数のロスです。この作業工数のロスは、オペレーティングが主体である装置・設備職場では大きなロスにはなりません。改善の優先順位も、設備や材料のロス改善に比べ、低くなることがほとんどです。しかし、人の作業がペースメーカーとなる組立作業や検査作業のような職場では、この工数のロスが職場の大きなロスとして表れます。

 そこでここでは、以前示した一般的な人の効率化を阻害するロス構造でなく、人がサイクルタイムの制約条件となり、ある程度繰返し性の高い職場を対象とした作業工数ロスの構造を考えます(下図)。

人の効率化を阻害するロス構造

人の効率化を阻害するロス構造

 人作業の工数ロスは、標準時間×良品数をあるべき姿(工数)としてロスを抽出します。あるべき工数に対して実際に投入している工数はいくらかを算出し、その差である過剰工数をロスと捉えて改善していきます。

 標準時間は、本来必要とするあるべき生産時間です。当面は、生産計画などで使用している基準サイクルタイムをもとにして考えればいいでしょう。

 作業工数のロスは大きく3つに分けられます。

 (1) 作業停止ロス

 作業が停止し、作業者の手が空いてしまう工数のロスです。まず1つ目は、前工程の問題により材料が来ない、急きょ生産計画が変更したことにより作業が止まる、また、生産量に合わせた人員配置がなされていないために発生する手空きといった管理の問題で作業が停止するロスがあります。2つ目は、設備の故障や段取りで作業ができないといった設備の問題で停止するロスです。

 (2) 作業効率ロス

 標準時間に対して実際の作業時間が多くかかっている、いわゆる作業効率が低下しているロスです。作業効率ロスは、ライン作業の作業バランスにより発生する「編成ロス」か、現状の作業が標準時間よりも長い、つまり不必要な動作が多い「動作ロス」か、応援や新人といった特定の作業者のスキル不足により発生している「スキルロス」かに区別して改善に着手します。

 (3) 不良手直しロス

 不良品をつくってしまった不必要な工数や、それを手直しするために要する工数のロスです。

 この3つのロスはそれぞれ設備効率化を阻害するロスにおける「停止ロス」「性能ロス」「不良ロス」に当たる位置付けと考えると理解しやすいでしょう。

 まずは、時間作業率、作業能率、良品率を算出し、人の効率化を阻害している問題点がどこにどれだけあるのかを明確にし、弱点から改善します(下図)。

作業工数ロスと作業総合能率

作業工数ロスと作業総合能率

人作業の効率ロス改善のステップ展開

 作業停止ロス・不良手直しロスは、設備の効率化を阻害するロスの改善と同様の改善ステップが使えるので、ここでは作業能率ロスの改善だけを説明します。

 作業効率ロスは、分析の対象により、ロス名称と改善手法が異なります。

 対象が単一人員の場合や、人と機械もしくは複数の人が協同して作業を行うときは、ロス名称は作業ロスとなり、作業ロス改善ステップを使用します。また、対象がライン作業の場合は編成ロスとなり、特定の作業者により、発生するロスは、スキルロスの改善ステップを使用します。



次回は「作業ロス」を解説します。


●著者プロフィール

大塚

大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)

日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント

日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。



鐘ヶ江

鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)

日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント

大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。

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