【NO.14】ロス別の改善ステップ⑧ 速度低下ロス
速度低下ロスとは
速度低下ロスとは、設備の基準スピードに対して、実際のスピードが遅いために発生する時間差のロスです。製品1個の単位で見ると小さなロスかもしれませんが、日に何百、何千個と生産していることを考えると大きなロスになります。
速度低下ロスへの対策には、
- サイクルタイムの短縮:加工動作の中に含まれているムダを省き、ネックとなっている工程の時間を短縮する
- 速度低下の原因対策:加工スピードを上げられない問題点を解決する
の2つがあります。まずは、改善成果を出しやすい「サイクルタイムの短縮」を先に、慢性的な問題である「速度低下の原因対策」を後に実施するようにしましょう。
速度低下ロス改善のステップ展開
速度低下ロス改善の7ステップ展開を下表に示します。以下に、各ステップの内容を説明します。
ステップ | 項 目 | 活動内容 |
ステップ1 |
各工程の能力バランス把握 |
・工程能力バランスの把握 ・改善目標の設定 ・サブテーマの設定 |
ステップ2 |
サイクルの実測とサイクル線図の作成 |
・サイクルタイムの実測 ・サイクル線図の作成 ・改善案の検討 |
ステップ3 | サイクルタイムの短縮 (加工していない時間の改善) |
・エアカットタイムの短縮 ・アイドルタイムの短縮 ・並行作業の検討 ・工具送り速度のスピードアップ ・加工順序の変更 |
ステップ4 | サイクルタイムの短縮 (加工時間の改善) |
・過去の問題点の確認 ・いじわるテストの実施 ・スピードアップした場合の問題点の整理 |
ステップ5 | 速度低下の原因対策 | ・速度低下の真の原因対策 |
ステップ6 | 設備の精度アップ、部品・工具寿命のアップ | ・設備の精度アップ ・部品・工具寿命のアップ |
ステップ7 | 効果の確認 | ・効果の確認 |
ステップ1:各工程の能力バランス把握
ステップ1では、改善すべき工程を明確にします。一般的に改善すべき工程は、生産ラインの中でライン全体の生産能力を決定する(生産量の制約となる)工程で、ネック工程と呼ばれます(ボトルネック工程・制約工程ともいう)。
(1) 工程能力バランスの把握
ラインのネックとなる生産能力は、各工程のサイクルタイムで比較します。ただし、バッチサイズが大きく、工程間に仕掛かりがある場合や故障や段取りなどのロスが大きい場合は、単純にサイクルタイムだけで判断できず、ネック工程が変わることも考えられます。
そこで、真のネック工程(設備)を顕在化するために、加工強度時間を算出します。加工強度時間とは、基準サイクルタイムを設備総合効率で割った数値で、負荷時間の中の現状発生しているロスも考慮したうえで、良品1個をつくるのに要している時間を求めています。これにより本当のネックとなる改善すべき工程(設備)が選定できます。
人と機械の組作業の場合は、機械のサイクルタイムだけでなく、人の脱着作業がネックとなる場合もあります。そこで、マシンタイムだけでなく、手扱い作業についても確認しておきましょう。
(2) 改善目標の設定
職場の速度低下ロス改善の目標を設定します。工場・部門の方針や職場の課題からの必達目標があれば、それを目標にします。この目標値により改善すべき工程がいくつあるか、それぞれ何秒サイクルタイムを短縮しなければならないかが明確になります。
(3) サブテーマの設定
ネック工程となる設備から順に改善対象を選定し、サブテーマとして設定します(下図)。
工程能力バランスの把握とサブテーマの設定
続いてサブテーマの主担当者、改善スケジュール(納期)を設定します。サブテーマの改善目標は上位方針で決定しているので、その目標達成を目指しましょう。ステップ2以降はサブテーマ単位で進めていきます。
ステップ2:サイクルの実測とサイクル線図の作成
サブテーマに選定したネック工程(設備)の実際サイクルタイムの内容を確認し、動作を分析することで改善案を抽出します。
(1) サイクルタイムの実測
まず設備の構造と機能を理解しましょう。次に各ユニットをマニュアルで動かし、動作と手順を確認します。
設備の動きを把握したら、設備の動作をビデオで撮影し、カウンターから各動作の詳細な時間を測定します。時間測定を行う際はスロー再生を利用し、加工(価値を生んでいる)時間と加工していない(仕事をしていない)時間を分けて測定することが大事です。そうすることにより設備の動きのムダが見え、改善が早く進みます。
また、各動作が何の条件で動き始めるかも合わせて調査します。このとき動作プログラムがあれば参考になるので準備するとよいでしょう。
(2) サイクル線図の作成
実測したサイクルタイムをタイムチャートに表します。各動作は加工時間と加工していない時間を分けて記入しましょう。
また、各動作の動き出しの条件がわかっていれば、それも記入しましょう。
(3) 改善案の検討
サイクル線図表から各動作単位で短縮の視点に添って改善アイテムを発掘します。
着目すべきは、タイムチャートの中の加工していない時間です。改善の考え方は人作業の改善と同様です。原点と加工点との距離を極力短くし、作業と作業間の待ち時間を短くすることを考えてみましょう。
また、現状と設計時点でのサイクル線図を比較してみると、悪さが一目瞭然にわかります。
ステップ3:サイクルタイムの短縮(加工していない時間の改善)
設備のサイクルタイムの中には、加工をしていない時間と実際に加工を行っている時間があります。ステップ3では、まず加工していない時間に焦点を当てて改善を実施します(下図)。
サイクルタイム短縮の考え方(加工していない時間の改善)
(1) エアカットタイムの短縮
エアカットタイムとは、加工できる準備が整っていながら、加工をしないで空転している時間です。ワークのはるか手前からの工具送り動作があるならば、その距離(動線)を短くすることにより時間短縮を図ることができます。
(2) アイドルタイムの短縮
アイドルタイムとは、1つの動作が終わり次の動作に移行する間に発生する時間です。動作のタイミングを取る関係で、安全分を見越して多めに取っている場合もあります。動作数が多い、または量産する工場では、これらの積み重ねはバカにできません。
(3) 並行作業の検討
動作スタートのタイミングを変更して、並行作業を考えます。改善前の設備は、ひとつの加工動作が終わったら次の動作へと、順を追って行われている場合が多いものです。そこで、1つの動作が完全に終わり切る前に、次の動作を始められないかと検討してみます。センサーの設置、シーケンサーの組替えなどによって並行作業が可能となる場合があります。
(4) 工具送り速度のスピードアップ
工具が材料に接近する動作を工具送りといいます。その動きそのものを早くします。
(5) 加工順序の変更
加工の順序が不適切なために工具の移動距離が長くなったり、タイミングが取りにくくなっている場合もあります。最適な加工順序について検討しましょう。
このように、加工していない時間の改善で共通的にいえるのは、設備の機構・部品構成・部品の機能・タイミングの取り方、設計時のサイクル線図を十分検討することです。その際、可能性を確かめながら試行錯誤的に実施し、問題点の確認を行いながら実施することがポイントです。
ステップ4:サイクルタイムの短縮(加工時間の改善)
ステップ3が加工していない時間の短縮であったのに対し、ステップ4では加工そのものの時間をスピードアップして時間短縮をねらいます(下図)。
サイクルタイム短縮の考え方(加工時間の改善)
(1) 過去の問題点の確認
加工がスピードアップできない原因として、過去に発生したトラブルの経験から、スピードを落としたままの状態で稼動しているというケースが多くあります。
そこで、スピードダウンをせざるを得なかった理由や、過去にスピードアップ改善をした際に発生した問題点を再確認します。今後スピードアップのテストを行う際にとくに注目しておかなければいけない問題点は、チェックポイントとして押さえておきましょう。
(2) いじわるテストの実施
スピードを上げて内在していた欠陥を増幅させ、過去のトラブルを再現することが、加工時間を短縮する上での真の問題点を発見するもっとも簡単な手段です。これを「いじわるテスト」といいます。
過去のトラブルが再現するか、また新たなトラブルが発生するかを、実際に「いじわるテスト」で確かめてみましょう。中には過去のトラブルの原因が強制劣化の放置・微欠陥の放置にあって、それらを自主保全などで是正したことにより、難なく目標スピードを達成できることもあります。
いじわるテストは、現状のスピードから徐々にアップしていきながら、問題が発生しないかを確認します。それは、スピードを上げていくことにより、問題点が徐々に現れる場合と、あるレベルまでは現れず、ある時点以降に急激に現れる場合があるからです。
(3) スピードアップした場合の問題点の整理
いじわるテストを実施した際、以下の項目についてのスピードアップの影響がないかを調査し、不具合があればその問題点をまとめます。そのチェックポイントの例を以下に示します。
- 従来の不良が増えていないか
- 今までにない不良が発生していないか
- Cp値の変化はどうか
- チョコ停の発生回数はどうか
- 刃具の寿命が短くなっていないか
- 設備の振動が増えていないか
ステップ5:速度低下の原因対策
ステップ4でスピードアップした際の問題点を整理しました。その中で、スピードを上げられない直接の原因となっているものについて対策を実施します。
目標スピードを達成できない原因には、大きく2つあります。1つはチョコ停、2つ目は不良です。チョコ停の場合はチョコ停の改善ステップ、不良の場合は不良の改善ステップを使用し、速度低下の原因となっている真の問題を解決します。
ステップ6:設備の精度アップ、部品・工具寿命のアップ
直接スピードアップの阻害要因にならない残りの問題点についても解決します。
設備の静的精度を測定し、異常項目は復元します。また、従来よりツールや部品の寿命が短くなったものにも対策を検討します。
ステップ7:効果の確認
速度低下の改善を通じて、目標の設備スピードで生産できるようになったかどうかを確認します。
次回は「不良ロス」を解説します。
●著者プロフィール
大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント
日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。
鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント
大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。