【NO.19】ロス別の改善ステップ⑬ スキルロス
スキルロスとは
スキルロスは、作業者の作業スキルが未熟なために、標準時間どおりの作業ができず、生産性を落としてしまうロスをいいます。単純な教育訓練不足によることもありますが、慣れやコツを必要とする作業のトレーニングを放置している結果サイクルタイムのバラツキが発生している場合がほとんどです。
したがって、スキルロスは作業者の問題でなく、職場の管理者の問題として捉えて改善を進めてください。
スキルロス改善のステップ展開
ステップ1:対象の選定
スキルロス改善のステップを以下に示します。
ステップ | 項 目 | 活動内容 |
ステップ1 |
対象の選定 |
・作業者別の生産性を確認 ・目標サイクルタイムと作業時間の比較 |
ステップ2 |
作業の分析 |
・作業者ごとにバラつく作業の確認 ・測定ごとにバラつく作業の確認 |
ステップ3 | 改善テーマの抽出 | ・ヒアリングによって難易度の高い作業の抽出 ・不安定作業、バラツキの多い作業の抽出 |
ステップ4 | 改善案の実施 | ・不安定作業の原因追求 ・調整の調節化 |
ステップ5 | 効果の確認 | ・作業時間のバラツキ確認 ・品質、生産性の確認 |
ステップ6 | 標準化 | ・作業手順書の作成 ・作業要領書の作成 |
ステップ7 | 教育体制の整備とスキル管理 | ・教育の仕組み整備(自習教育ツールや訓練キットの作成/スキル認定されてからのラインへの配員) ・定期的なスキルチェック |
スキルロスの改善は、スキルが十分でない作業者を明確にすることが第一です。まずは、作業者別の生産性を確認し、目標に達していない作業者に着目しましょう(下図)。
作業者別の生産性の比較
作業時間を把握し、目標サイクルタイムと比較することでスキルロスの大きさを明確にすることができます。
ステップ2:作業の分析
スキルロスの大きい作業者、熟練者の作業時間(または標準時間)を要素作業単位に測定し、比較してみます(下図)。
要素作業単位の測定結果
これにより個々の要素作業の時間差が見え、どの要素作業に問題があるのかがわかります。時間差の大きい要素作業は「やりにくい」「コツがいる」といった問題を抱えているはずなので、1つひとつを改善のテーマとします。
また、作業の問題点を洗い出すには、同じ作業を複数回測定するのも大切です。測定ごとに時間のバラツキが出る作業も、何らかの問題を抱えているはずです。
ステップ3:改善テーマの抽出
ステップ2で、標準より時間が多くかかっている作業や、時間のバラツキが大きい不安定な作業といった改善すべき作業が見つかりました。しかし、それ以外にも問題のある作業が潜在化している場合もあります。
そこで作業者に作業の問題点を聞いてみるのもいいでしょう。また、時間は安定していてもバラツキ要因になりそうな位置合わせ作業や調整作業、作業姿勢の問題点も合わせて抽出します。
ステップ4:改善の実施
改善テーマに選出された不安定な作業に対し、具体的な改善方法を検討します。
動作の面から見ると、作業範囲が適正内になく、「指、手首、前腕」の動きよりも大きい「上腕、肩、胴や足」にまで及ぶ動きがあれば、バラツキ原因になります。工具や部品といったモノの置き方やワークの運搬に着目し、適正作業範囲で作業を完結できるようにしましょう(下図)。この適正な作業範囲のことを、ストライクゾーンと称している工場もあります。
適正作業範囲
また、選ばせない、考えさせない、確認させない工夫も必要です。たとえば、
- 取り付ける順番に部品を並べる
- 取り付け忘れの異常がわかるように部品をキットにして配膳
- 探さない、移動させない、持ち直さない工具や部品の向きや角度
- 似かよった部品や工具の統一化
- コツを必要としない、必ず定量が取れるようなからくり
というように、小さくて当たり前のことをおろそかにしている場合があります。
さらに、検査の作業は目線にも着目したり、調整作業は排除して、極力調節作業にします(ブロック突き当て化による位置決め基準の不動化など)
また、人の入れ代わりが激しい職場では、新人でも作業しやすい工程づくりも考えてみましょう。難易度が低くコツを必要としない、覚えやすい工程を事前に選定しておき、そこに新人や応援者を配置するのが基本です。さらにその前後の工程にベテラン作業者を配置し、多少のロスは応援でカバーできる体制も必要になります。
ステップ5:効果の確認
改善によって対象作業の不安定さがなくなり、時間のバラツキが小さくなったら、それぞれの作業ごとに評価をします。また、作業者間の手順や品質、生産性に差がないか、設定した目標どおりの生産性になったかなどを確認します。
ステップ6:標準化
改善した結果に対し、標準化を実施します。コツの必要な作業は文章だけでは理解しにくいので、映像や写真、現品サンプルなども合わせて使用し、情報量を多く伝達できる要領書を作成します。
ステップ7:教育体制の整備とスキル管理
ステップ1でも説明したとおり、スキルロスは作業者ではなく管理の問題です。ラインに入る前の教育が十分でないまま、配員されてしまっていることも多いのではないでしょうか。ラインに配員する際の条件や教育の仕組み不備について目を向けることが大切です。中でも新人や応援作業者に対する教育の仕組みを強化し、未然にロスを抑え込むことを考えた方がいいでしょう。
具体的には、ラインに入る前にOJTなどで作業の手順や基本動作の訓練を徹底的に行い、時間・手順・品質に問題がことないを確認してからラインに配員すべきです。
しかし、実際は新人を教育するリーダーや熟練者の工数も非常に大きなロスとなります。そこで、新人作業者が各自で実習できる教育ツールや訓練キット、実力テストの方法も検討しましょう。
また、官能検査のような個人に依存したスキルの場合は、判定基準の感覚を定期的に基準値に戻すような感度確認テストを実施しましょう。
次回は「材料ロス」を解説します。
●著者プロフィール
大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント
日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。
鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント
大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。