【NO.21】最終回 ロス別の改善ステップ⑮ 事務効率ロス
職場には、まださまざまなロスが存在するでしょう。ここでは、事務効率ロスを紹介します。
事務効率ロスとは
事務効率化とは
事務効率を改善する上では、まず役割を全うするために必要な業務が適正な工数で実施されているかを明確にする必要があります。つまり、その適正工数と実際に使用している工数との差を定量的に把握し、それを事務効率のロスと定義して改善を進めていきます。
しかし実際には、業務が多岐にわたり業務内容が見えていない、また業務ごとの適正な工数も不明確といった問題があり、改善を行う前に事務効率ロスを定量的に把握するのは難しいものです。そこで、この事務効率化の改善ステップでは、
①現状の業務内容を包み隠さず見える化する
②明確になった業務を職場の役割から必要業務と不必要業務に層別し、不必要業務を排除する
③必要な業務についてはムリ・ムダ・ムラ動作の削減し、適正作業・適正工数を設定する
④適正工数どおり作業できる訓練の実施
といった一連の流れで改善を実施します。
いったん決定した適正工数は今後の基準になるので、事務効率ロスが算出できます。
事務効率ロス改善のステップ展開
以下に事務効率ロス改善の7ステップ展開をまとめました。
ステップ | 項 目 | 活動内容 |
ステップ1 |
業務の見える化 |
・業務内容の明確化 ・業務構成ツリーの作成 |
ステップ2 |
業務の必要性の見直し |
・業務の必要性確認 ・不必要業務の廃止 |
ステップ3 | 業務量比率の確認 | ・使用時間比率の把握 ・データの集計 ・サブテーマの選定 ・サブテーマの目標設定 |
ステップ4 | 作業の見える化 | ・事務作業分析の実施 ・不具合の抽出と改善案の実施 ・改善案のランク分け |
ステップ5 | 改善の実施 | ・自部門でできる改善の実施 ・他部門を巻き込んだ改善の実施 |
ステップ6 | 効果の確認 | ・効果の確認 |
ステップ7 | 標準化とスキルアップ | ・作業手順書の作成 ・スキルアップ訓練 ・維持の仕組みづくり |
ステップ1:業務の見える化
間接業務は見えないと言われがちです。そこでステップ1では、自職場の役割から業務内容を明確にします。また、その業務内容を系列的に整理し、業務構成の大まかな「見える化」を進めます。
(1) 業務内容の明確化
自部門の業務内容を明確化していきます。まずは、「自部門の役割は何か」から考えます。次にその「役割を果たすために行っている業務」にはどういうものがあるのかを抽出していきます。これらの抽出では、部門メンバー全員で実施するとよいでしょう。仕事の内容が異なるメンバー全員が参加することで、項目に抜けがなくなります。また、実施項目の抽出にはポストイットなどを使用すると、この後のツリー作成作業がラクになります。
ISOを取得している企業であれば、品質マニュアルのベースとして、各部門の業務フローを作成しているでしょうから、それを使用してもいいでしょう。
(2) 業務構成ツリーの作成
仕事を見える化することにより、自分たちの役割にはどのような業務があるかがわかります。それらを構成する業務がわかったら、それを系統図的にワークユニット(WU)ツリーにまとめます(下図)。これまで見えなかった他のメンバーの仕事を見えるようにし、職場全体で時間の使われ方を把握します。
ここでは4〜3次のWUレベルまで、系統立ててまとめあげます。
購買部門のワークユニット
ステップ2:業務の必要性の見直し
細かい作業の改善に進む前に、4〜3次WUレベルで「その業務をやめたらどうなるか」を検討していきます。それは、業務単位での改善ができれば、その下流にある作業すべてが不要となり、効果の大きい改善ができるからです。
(1) 業務の必要性確認
ここでは、ステップ1で作成したワークユニットの4〜3次レベルの業務1つひとつについて、「その業務をやめたらどうなるか」といった必要性を問いかけて考えます。
業務の中には、過去からの慣習や、何となく前任者から引き継いだといった、目的がはっきりしない業務も少なくないはずです。
- 職場の機能として必要かどうか
- 誰が何のために必要としているのか
- 今でも本当に必要なのか
- なくなったら、何か問題が出るか
- 代用が利くものはないか
といったECRSの見方で、すべての業務を見直してみましょう。
ある会社では、間接部門がデータの加工や集計業務を懸命に行っていたのですが、「当時は必要とされていたが、現在は別のデータを使用している」「PCが不得意な管理者のためだけのサービスだった。しかも、異動により今では誰も使っていない」「毎週メールでデータを送っていたが、現場ではサーバーから直接データを読んでいた」といった事例もありました。
(2) 不必要業務の廃止
不必要と思われた業務を廃止してみて、本当に問題がないか、新たに別のロスが生まれないかなど確認します。改善などの副作用はどうかという確認も重要です。
ステップ3:業務量比率の確認
ステップ3以降では、ステップ2で業務の必要性を確認して残った必要とする業務について、作業の内容を細かく見て、そこに問題がないかどうかを確認していきます。
ステップ3では、業務内容ごとの作業量を把握し、その中から改善すべきテーマを選定します。
(1) 使用時間比率の把握
ステップ2で必要と判断した業務について(4〜3次ワークユニットレベル)、それぞれにどれだけ時間を費やしているかを調査します。
業務日報から算出する方法もありますが、ここでは、各作業のおおよその時間値が把握できればよいので、調査をする方法としてワークサンプリングを紹介します。これは時間比率を把握する手法として、対象職場を限定せずに間接職場でも広く活用されています。
手順①:観測項目を設定し、定義する
ここでは、必要とされた4〜3次のワークユニットを観測項目とします。
手順②:観測項目を設定する
観測の一貫性を持たせるために、各項目は作業の開始、終了がわかるように定義しておきます。同じ内容を人によってちがう項目へチェックすることがないようにします。
手順③:観測期間を決める
正しい作業比率を出すために、業務のサイクルで観測期間を決めます。業務が週サイクルで回っている職場ですべての作業を捉えるには、一般に1週間の観測期間を必要とします。また、経理業務は月サイクルで変動するので1ヵ月の観測期間が望ましいでしょう。
手順④:観測時刻の決定
ワークサンプリングでは、サンプルデータの偏りが入らないことが重要なので、通常は乱数表やランダム時刻表によって観測時刻を設定したランダムサンプリングを用います。
手順⑤:観測の実施
観測用紙(下図)に事前に手順①で設定した項目を記入しておきます。その観測用紙を用い、観測時間になったらそれぞれの作業者がどの作業を行っているのかを判断して、該当する項目にチェックしていきます。
ワークサンプリング用紙の例
対象者が不在の場合はその場でその理由を尋ねて、該当する項目にチェックします。観測中に観測項目にない作業が発生したときには、新たに観測項目を設定するか、欄外にその内容を記入しておいて後で検討します。また、観測中に気が付いた点や改善案は、備考や欄外に書き込んでおくとよいでしょう。
(2) データの集計
分析した結果を整理します。問題点の検討がしやすいように、分類した業務の工数でグラフ(円グラフ、パレート図)にまとめます。
(3) サブテーマの選定
時間が多くかかっている業務は、そこに含まれるロスの量も大きく、その改善の効果も大きいと考えられます。まずは時間に着目して改善を実施するサブテーマを選定します。サブテーマとなるのは4次または3次のWUとなります。
(4) サブテーマの目標設定
サブテーマの時間削減目標を設定します。設定値が決まらないようなら、25〜50%削減を目安にしてください。ステップ4に入り詳細の時間がわかったら、再度目標時間を設定し直してもいいでしょう。また、リードタイムの問題やミスの問題などが顕在化されたら、それらの削減も目標として設定します。
ステップ4:作業の見える化
ステップ4では、ステップ3で選定したサブテーマについて、事務作業の始まりから終わりまで、作業、帳票、情報の流れをスルーで見えるようにし、その中に潜む不具合を見つけます。
(1) 事務作業分析の実施
事務の作業分析では、生産現場で使用される作業分析と異なり、巻き紙分析がよく使用されます。それは、事務作業が個人で自己完結できる仕事だけではないからです。
個人の仕事の流れを追いかける作業分析とは異なり、巻き紙分析は他者や他部門との帳票や情報の受け渡しなどの流れ・タイミングのすべてが把握できるので、事務作業の分析には適しています。
巻き紙分析の特徴は以下のとおりです。
- 作業と情報の流れ全体を実際の帳票などを使って「見える化」することにより、実際の業務を全員が共通で認識できる道具である
- 実物(帳票類や入力画面)が見えるので、作業担当者に限らず、管理者や関連部門の人たちが目で見て理解し、問題を検討し改善に結びつけるための道具である
巻き紙分析の基本フォーマットと分析の簡単な進め方を下図に示します。
巻き紙分析の基本フォーマット
巻き紙分析のステップ
(2) 不具合の抽出と改善案の立案
巻き紙分析で見えるようになった流れの中から、作業の効率を阻害する不具合を抽出していきます。
① 分析結果からの不具合点の抽出
分析結果の作業手順1つひとつの項目について、ECRSで不具合点を見つけていきます。ポイントは担当者だけでなく、関係者全員で実施することです。作業を理解しすぎていると悪さが見えないこともあります。それぞれの立場から、疑問点や不具合点を出し合いましょう。
不具合点が見つからない場合は、以下のポイントも確認してみてください。
・作業品質にバラつきはないか
・停滞時間を短縮できないか
・他部署も含めて重複作業はないか
・時間がバラつく、やりにくい作業はないか
・二度手間、転記作業はないか
・確認作業はないか
・手書き、手計算作業はないか
・考える作業はないか
・属人化した仕事はないか
・移動、運搬はないか
・まとめて仕事ができないか
・電子化できる仕事はないか
② 後工程での問題確認
自職場だけの問題点の抽出だけでなく、アウトプット先(後工程)へもヒアリングに行き、不具合が起きていないか、困りごとはないか、手間がかかっていないかといった改善点の確認も行いましょう。後工程から見た業務のあり方を確認することにより、後工程が望んでいること、つまりもっとも良いサービスがわかります。
(3) 改善案のランク分け
改善案をもとに改善計画を立てる際、次のようにランク分けしておくと、改善の優先順位を決められ、役割も分担して進めることができます。
A:自分たちで解決できそうなもの
B:他部署と連携すれば解決できそうなもの
C:会社全体で取り組むもの(問題提起)
下図に不具合摘出表の例を示します。
不具合摘出表の例
ステップ5:改善の実施
ステップ4で抽出された改善案について、まずはAランク、続いてBランクと実施スケジュールを作成し、改善を行います。
(1) 自部門でできる改善の実施
Aランクの改善案について実施します。改善は、効果を早く出すことも大切ですから、自分たちでできるAランクのものから進めていきます。
(2) 他部門を巻き込んだ改善の実施
Bランクとした問題について対策を打ちます。Bランクは他部門と整合を取らないと進められません。ここではふだん仕事をしている慣れ親しんだメンバーではなく、他部門のメンバーと一緒に改善を行うことにより、折衝能力や横断的改善能力を身につけていきます。
ステップ6:効果の確認
改善効果を定量的に把握し、目標に対して達成しているかどうかを確認します。サブテーマの目標どおりの作業工数、リードタイムになったか、またはミスゼロになったかを管理グラフで確認します。
改善結果が満足な状態ならば、次のステップに進みます。しかし不満足ならば再度ステップ4に戻って、不具合の洗い出しを実施します。
ステップ7:標準化とスキルアップ
ステップ7では、ステップ6までの活動で改善された成果を維持するための活動となります。
(1) 作業手順書の作成
事務作業をソフト面から維持管理するしくみが「作業手順書」です。作業手順書は、改善された作業に対して、正しい手順・時間を明確にする、ルールの曖昧さや不遵守から改善が元に戻ることのないよう文書で管理するといったことが大切です。この手順書で設定した作業時間が、適正工数になります。
(2) スキルアップ訓練
また、作成した手順書どおりに作業するには、訓練が必要です。訓練を実施する際には、誰が何の作業ができて作業レベルがどれほどかといったスキルの現状と、そのスキルをどこまで上げたいといったスキルアップの目標がわかるスキルの管理も合わせて必要になります。
スキルマップを作成し、個人別のスキルアップ(レベルアップと多能工)目標を設定し、体系的に進めていきましょう。
(3) 維持の仕組みづくり
ここで気をつけることは、削減された時間を何に使うかを明確にすることです。人が作業ペースをつくる業務は規制がないとどうしても元に戻りがちです。つまり改善の効果を確保し続ける仕組みを考えることも重要になります。
今回で連載は終了です。ありがとうございました。
●著者プロフィール
大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント
日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。
鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント
大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。