【NO.1】ロス改善の考え方① ロスとは

新連載のコラムとして、ロス改善をテーマした記事を掲載していきます。内容については、書籍『結果を出す現場改善9』(JMAC刊/著者:大塚寛弘、鐘ヶ江克則)をもとにして、ロス改善のステップを紹介していきます。具体的には、故障ロス、段取りロス、チョコ停ロス、速度低下ロス、不良ロス、作業ロス、編成ロス、スキルロス、事務効率ロスを取り上げていきます。


はじめに

 生産現場でロス改善活動を進める際には、できるだけ効率的に改善成果をあげる必要があります。効率的とは、①早く、②安く、③学びがある(うまい)の3つの側面で評価できるということです。
 効率的に改善成果をあげるには、それなりの改善の進め方やポイントがあります。そのひとつが改善ステップです。改善ステップの効用として以下の点があげられます。

 (1)進め方の共有化:メンバー間での方向性の確認を容易にする
 (2)進捗の見える化:スケジュール作成や進捗管理を容易にする
 (3)人材育成:改善の進め方や手法の理解を促す
 (4)ナレッジの蓄積:改善結果(情報)を活用しやすくする

本コラムのねらいは、ロス別の改善ステップを理解して、自分たちで改善の進め方を研究することです。改善の進め方(プロセス)や実施事項(プラクティス)は、比較的簡単に模倣することが可能です。その意味でこの連載は、「HOW TO本の一種」と考えていただいてもよいでしょう。連載の記事の中からそれらを読み取り、自社の改善活動のさらなる加速や強化の参考にしていただきたいと思います。

 さて、このコラムで解説していく改善ステップとは「おおまかな手順」です。ちょっとした道案内程度のものであり、ロス改善に成功した企業の改善事例の中から「改善ステップ」を抽出してみました。ロスごとの改善ステップとそのポイント、事例は、ロス改善を実施する際の参考となるでしょう。
 もちろんこれは、読者の改善の進め方ややり方を縛るものではありません。実際のロス改善の進め方は千差万別ですから。

 連載の前半では、ロスについての理解やロスを定量化するための指標を理解していただきます。以降、改善ステップの基本的なプロセスと、いくつかの方法論の違いを。さらに、ロスの特徴に合わせて効率的な改善成果をあげるためにアレンジした、ロス改善ステップを紹介していきます。

 ロス改善は、ステップがなければできないわけではありません。ステップを重視するあまり、手順や分析手法の適正性に関心が集中してしまう場合もあります。ただし、改善の進め方や改善手法の理解を向上させる、すなわち改善力向上のためのトレーニングが目的である場合は、ステップを活用するまたはステップに沿って実施することは有効です。
 なお、より具体的な改善のポイントやコツについて習得したい場合は、ぜひJMACにお声がけください。

1・1 改善の基本は事実確認

 改善の基本は「事実の確認」をすることでしょう。これは、現場・現物で問題点がどのようになっているのか確認することを意味します。事実確認を継続することで、その原因・打つべき対策が明確になり、問題点が改善されます。改善が上手か下手かの違いは、事実確認の仕方によるということもできます。多少極端かもしれませんが、「改善ステップとは、段階的に事実確認することを促している」といえるのではないでしょうか。

 事実確認で重要になるのは、まずロスの把握です。一般的な改善の進め方においては、ロスの把握は「現状把握」と言われ、改善対象となるテーマのロスや悪さ加減、改善の必要性を明確にするために必要な手順となっています。

 ふだんの現場管理でロスをどれだけ把握できているのか、これは工場マネジメントのレベルを知る上で重要なポイントになります。たとえば、マネジメントレベルが高い工場ではロスをライン別や設備別に出していますが、低い工場では出来高数や投入工数、不良数をなんとか把握している程度です。

 ただし、「マネジメントレベルが低い = 問題のある工場」ではありません。工場の経営環境に応じて、必要なマネジメントレベルになっていればよいのです。

1・2 コストダウンを阻害するロス

 さて、皆さんの工場やラインでは、どのようなロスがどれだけ存在しているのでしょうか。ここでは、ロスの把握について理解しましょう。

 工場にはさまざまなロスがあります。では、そもそもロスとは何でしょうか? 効率を落とすもの、故障ロスや段取りロス、不良・利益を阻害するもの、付加価値を生まないものなどさまざまです。また、別の観点から見ると、組織的ロスや意思決定ロスなどマネジメントレベルでのロスをあげる場合もあるでしょう。

 このように、ひと言にロスといっても、さまざまな観点からあげることができます。その中で、hこの連載で取り扱うのは、生産現場(または工場現場)領域を対象としたロスです(下図)。

ロスとは

ロスとは

 生産現場におけるロスとは、コストダウンを阻害するものです。端的に言うと、ロス改善はコストダウンに結び付かなければなりません。ここでいうコストダウンとは、直接的には製造のコストダウンを意味します。もちろん、コストダウンは本来、製造コストに限ったことではありません。生産現場以外でも、本社、管理部門、設計、営業、研究、海外拠点などトータルなコスト低減が必要なのはいうまでもないのですが、ここでは製造コストに特化するということです。

 コストダウンを阻害するロスの大きさを具体的にする見方として、「現状コスト−目標コスト」と見立てることにします。改善代ともいう場合もあります。皆さんの工場でも、「目標コスト(または計画コスト)に対して現状コストがどれだけギャップがあるから」といった検討は、当然なされているでしょう。

 では、具体的には何をすべきなのでしょうか? それを知るためには、ロスを定義して把握する必要があります。

 少し回りくどい言い方になりましたが、要は「ロス(コストギャップ)を見るためには、ロスをいくつかに分解し、その中身が見えるようにすることが大事」ということです。これは、コスト構造を理解することと同義です。そしてその分解の仕方が、以下に示すようなコストダウンとロスの関係になります。

 次の図は、その一例です。これは、MFCA(Material Flow Cost Accounting:マテリアルフローコスト会計)のコストの考え方をベースに整理したものです。一般的な「変動費と固定費の関係」や「材料費と加工費の関係」で区分されるものに近い考え方です。各社各工場でコスト算出の仕方や名称には違いがありますが、コスト費目の区分の考え方から大きく外れることはないでしょう。

コストダウンとロスの関係

コストダウンとロスの関係

 まず、コストの大きな部分を占めるのが材料費です(工場によっては加工費が大きい場合もあるので、一概には言えません)。材料費低減のためには、材料そのものの見直し(条件見直し)、複数購買などによる購入単価低減、ためし加工のレス化などがあげられます。また、短期的には難しいのですが、工法の見直しによる材料費の低減もあります。材料費低減を阻害するロスとして代表的なのは歩留まりロスです。このロスに関連して、不良ロス、立上がりロス、目減りロスなどがあります。

 次に、加工費です。その低減には、不要業務の廃止や工程バランス見直しによる作業改善やアウトソーシングなどがあります。加工費低減を阻害するロスとしては作業ロスや編成ロスがあり、作業ロスには管理ロスや動作そのもののロスも含まれます。

 それから管理費です。管理間接部門の費用や販売管理を含めた費用であり、物流ロスや在庫ロスなどが代表的です。

 最後にエネルギー費用です。燃料や電力、用水などの費用で、立上がりロスや過負荷ロスなどが該当します。

次回は16大ロスを取り上げます。


●著者プロフィール

大塚

大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)

日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント

日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。



鐘ヶ江

鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)

日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント

大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。

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