【NO.3】ロス改善の考え方③ ロスの定量評価(コスト評価と効率評価)

3・1 ロスの金額評価

 ロスは定量的に把握する(金額で評価する)必要があります。もちろん金額で評価しにくいロスもあります。たとえば、間接部門のロスなどの工数部分や具体的な購入費用ロスなどは、コスト計算できても月次のPL(Profit and Loss Statement:損益計算書)などの作成期間などをコスト評価するのは難しいところがあります。そこでここでは、ロスの金額評価について、簡易でわかりやすい算出方法を説明します(下図)。

ロスの金額評価

ロスの金額評価


 たとえば、1日60分停止した故障ロスがあったとします。なお、このラインには3人の担当オペレーターが働いています。いったん停止すると、復帰まで他ラインを支援したり復帰の手伝いする場合もあって時間のムダは発生していないという見方もありますが、ここではムダになったと見立てて算出します。

60分 × 3人 × @チャージレート

 チャージレートは工場ごとに違いがあるので任意に設定してください。3000〜5000円程度が目安です。その他ロスによっては、実際に費用が発生したものは別途その金額を加えるだけでよいでしょう。コスト評価の厳密性や正確性については、別途、ロス・コストに関する文献を参照ください。

 ロスを金額評価し、コスト低減のためのマネジメント手法として、ロス・コストマネジメントという考え方があります。ここでは詳細は割愛しますが、工場全体でコスト低減するための手法です。

 その手順は、

  1. コスト低減目標を設定する
  2. コスト低減するためにロスを洗い出す
  3. ロス改善を実施する
  4. ロス改善の寄与を確認する

となります。代表的なロス・コストの進捗管理用フォームを下図に示します。

ロス・コストツリー

ロス・コストツリー

 この例では、コストを固定費、変動費、物流費に区分して、ロスとコストの関連をツリー状に表しました。それぞれのグラフはマネジメント用に、ロス改善目標と実績がわかるようになっています。ロス改善実績はコストと関連付けられているので、ツリーの下位のロスを改善していくと、上位のコストグラフが変化してきます。改善されたロスは、コストダウンに寄与するかどうかが重要になります。また、コストダウンに寄与するようにロスとコストの関係を見える化し、マネジメントすることが重要です。

3・2 ロスによる生産性評価(設備総合効率)

 ロスの評価として、従来からも存在している効率評価(生産性評価)があります。設備ならば設備稼動率や設備総合効率、人ならば労働生産性や人生産性、材料ならば材料歩留まりがあげられます。いずれの指標も、金額評価はしなくともロスの発生比率を把握できる重要な指標です。

 参考までに、設備総合効率について説明します。設備総合効率は、設備のロスを計算することで、どれだけ設備が有効に使われているか、設備の稼動状態を判定します。算出方法は、以下の3つの率を掛け合わせて算出します。一般に、50〜60%の値となる場合が多いようです。

設備総合効率 = 時間稼動率 × 性能稼動率 × 良品率

(1)時間稼動率

 時間稼動率とは、負荷時間(設備を稼動させなくてはならない時間)に対し、実際に稼動した時間との割合で、次の式で表されます。

時間稼動率 = (負荷時間 − 停止時間) ÷ 負荷時間

ここで負荷時間とは、1日(または月間)の操業時間から、生産計画上の休止時間・計画保全の休止時間・日常管理上の朝礼などの休止時間を差し引いたものとします。また停止時間とは、故障・段取り・調整・刃具交換などのために停止した時間です。たとえば、1日の負荷時間が460分、1日の停止ロス時間が故障停止で20分、段取り20分、調整20分、合計60分だとすると、1日の稼動時間は460 − 60 = 400分になります。この場合の時間稼動率は、約87%となります。

(2)性能稼動率

性能稼動率は、速度稼動率と正味稼動率から成り立っています。速度稼動率とはスピードの差を意味し、設備が本来持っている能力(サイクルタイム・ストローク数)に対する実際のスピードの比率です。つまり、決められたスピード(基準スピード・サイクルタイム)で実際に稼動しているかどうかを見るのです。たとえば、基準スピードが0.5分/個で、実際のスピードが0.8分/個とすると、この場合の速度稼動率は62.5%となります。設備がスピードダウンしているとすれば、そのロスはどの程度かを浮き彫りにするもので、次の式で表されます。

速度稼動率 = 基準サイクルタイム ÷ 実際サイクルタイム

 また、正味稼動率とは、単位時間内において一定スピードで稼動しているかどうかを浮き彫りにします。基準スピードに対して早い・遅いではありません。たとえ遅くても、そのスピードで長時間安定稼動しているかどうかを評価します。たとえば、加工数量が400個で、不良品が8個だとすると、この場合の正味稼動率は80%となります。これによってチョコ停によるロスや、日報に表れない小トラブルによるロスを算出できます。

正味稼動率 =(実際サイクルタイム × 加工数量)÷ 稼動時間

 そして、性能稼動率は次の式によって算出できます。

性能稼動率 = 速度稼動率 × 正味稼動率 = 0.625 × 0.8 = 50(%)

(3)良品率

 良品率とは、加工または投入した数量(原料・材料など)に対して、実際にできあがった良品数量との割合です。たとえば、加工数量が400個で不良品が8個とすると、この場合の良品率は98%となります。不良数量の中味は、廃却不良だけではなく手直し品も含めます。

良品率 = (加工数量 − 不良数量)÷ 加工数量

設備総合効率 = 時間稼動率 × 性能稼動率 × 良品率 
= 0.87 × 0.5 × 0.98
≒ 42.6(%)

 この例では、設備総合効率が42.6%と非常に悪い状態にあります。これは速度稼動率と正味稼動率が悪いからです。したがって、その対応策としては、速度アップとチョコ停対策を図ることが必要になりそうです。

次回から「ロス改善の進め方」を取り上げます。


●著者プロフィール

大塚

大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)

日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント

日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。



鐘ヶ江

鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)

日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント

大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。

次へ 

「QC7つ道具」はデータサイエンスの第一歩!

 前へ

【NO.2】ロス改善の考え方② 16大ロス(+αロス)