【No.5】ロス改善の進め方② 改善ステップ
ロス改善の基本的な流れ(7ステップ)を解説します。
ステップ1:改善テーマおよび目標設定
いわゆる現状把握の段階です。ロス分析をして、テーマの選定、目標設定、役割分担を行います。ロス分析では、パレート図やグラフなどを活用します(たとえば、歩留まりロスを阻害しているロスで何がもっとも大きいか、そのロスの内訳は何かを明確にする)。
テーマの選定では、上記の例ではロス分析の結果から歩留まりロス低減に効果のある課題(後にテーマ)を抽出し、優先順位を確認して改善テーマとして選定します。選定されたテーマは、テーマの難易度などから優先順位を確認し、テーマのレベルにより改善チームに割り付けます。これを役割分担といいます。ここでいう改善チームとは、プロジェクトチームや職制、小集団を意味しています。
なお、テーマの優先順位については、以下の項目からレベル分けするといいでしょう。
①改善効果の大きさや必要性
②テーマの難易度(解決までの納期が3ヵ月以内、6ヵ月前後以上を要するなどで判断)
③予想される解決費用
単に改善する、しないを決めるだけではありません。改善の必要性が高くても、難易度が高いテーマは先送りされる場合が多いものです。このようなときには、再度改善テーマの解決のために必要な体制をつくる(人材調達、人材養成)などが必要です。改善テーマの優先順位付けは、改善の進め方自体(大げさに言えば改善の戦略)と関連しています。
ステップ2:改善計画の立案
いわゆる日程計画や改善スケジュールを作成する段階です。テーマの内容によっては、日程計画に落とし込むことが難しい場合もありますが、基本的には、本書の改善ステップや後述のロス別の改善ステップを日程計画に落とし込んで日程計画を作成してください。
なお、改善計画の各実施事項は、より具体化し、改善チームメンバーのスキルに応じて役割分担するとよいでしょう。改善活動を通して、人材育成ができることがより望ましい姿です。
ここでいうスキルに応じた役割分担とは、たとえば、パレート図作成などQC手法を習得したラインのリーダー(小集団リーダー)がロス分析を行ったり、QC手法未習得のオペレーターが、効果確認のためにデータ収集をするなどの分担を意味します。
ステップ3:現象観察、原因解析および対策立案・評価
改善の中でも重要な段階です。現状観察は、文字どおり発生しているトラブル現象を現場・現物で事実を確認することです。デジタルカメラの動画モードやビデオカメラを活用するなどの工夫をしましょう。
また現象観察には、現象そのものを確認すること以外に、現象を発生させている設備や装置の機構や構造、加工のプロセスを観察することも含まれます。つまり、発生している現象のメカニズムをとらえることをねらいとしています。
現象把握では、「風が吹けば桶屋が儲かる」的なとらえ方がされる場合があります。「このロットではチョコ停が多い」などはその典型で、これでは原因を追求したとはいえません。「どのような場所で、どのようなチョコ停が多いか」といったように、現象を細かく確認します。そしてその部位では、「設備や装置がどのような動作(加工)をしているか」をとらえなければなりません。また、「その動作は何を介して行われているか」などを確認することがメカニズムをとらえることになります。このようにメカニズムをとらえ、理解することが原因追求の足がかりとなります。
原因解析は、特性要因図やなぜなぜ分析、PM分析などを活用して実施します。とくに手法を制限するものではありません。原因解析のために、QC手法や統計的品質管理法であるSQC手法など各種手法を駆使し、現象と原因の関係の明確化を行ってください。
対策立案は、原因分析からあげられた問題点に対していくつかの対策案を立案し、有効性を比較検証し実現可能な対策を選定します。
ステップ4:改善の実施
改善実施計画に沿って、改善を実施する段階です。改善内容によっては、必要な予算措置をすることも必要です。また、改善実施内容については、事前に関係者に伝達し、周知を確認するのも大切です。改善実施の際に安全が最優先されることはいうまでもありません。
ステップ5:効果の確認
当初の目標レベルと比較して、対策の有効性を確認します。また、対策によるその他の波及効果や新たな問題点、事前に想定した以外の問題点の有無を確認します。もちろん、対策実施によってオペレーターの負荷(工数)がどのように増減しているのかも漏れなく確認しておきましょう。
ステップ6:歯止め
効果の認められた対策を基準化して、各種標準として運用ルールを作成する段階です。運用ルールの中には、必要な伝達教育も含めるようにしましょう。
そのためには、効果が認められた対策は、その条件(位置、時間、温度、圧、回転数など)を数値化して、その数値の根拠を明確にしておきます。なぜその値が最適なのか、どの数値まで許容できるのか、管理範囲として妥当な理由は…などを明確にします。これらは再発防止や今後の維持管理のためにとても重要な情報です。いわゆる「How to」でなく「Know Why」を明確にすることと同義だと考えてください。
ステップ7:水平展開
ロス分析および関係ラインへの影響度から水平展開の対象を確認し、対策を水平展開します。その際には、ステップ6で設定した基準をベースとして行います。同一設備でありながら条件を再設定しなければならない場合も発生するので、その理由(たとえば、機差やそれ以外の要因の有無)の確認を行います。
いずれにしても、管理しやすい条件の設定を第一として水平展開を実施し、全体としてのロス低減を図ります。もちろん、必要なスキルについての伝達教育も水平展開することはいうまでもありません。
次回はその他の改善の進め方を取り上げます。
●著者プロフィール
大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント
日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。
鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント
大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。