【No.7】ロス別の改善ステップ① ロスの定義

ここからは、先に16大ロスとして紹介したロスの特徴に合わせて、さまざな現場で改善ステップをアレンジし、実際に活用したロス改善ステップをいくつか紹介します。

すでに紹介した16大ロスは、職場によってうまく当てはまらないこともあるでしょう。ロスは問題を見つけ、改善をするための道具です。当てはまらないものをムリに使っても意味がありません。そのようなときには、ロスを自職場の特徴に合わせて変えてみてください。

ロス改善も同様です。ロス改善の基本ステップを、そっくりそのままの形で行う必要はありません。着眼点に抜けや落ちがないことを確認したら、本章を参考にロスや自社の特徴に合ったやり方を実施すればよいのです。

ここでは、基本的な16大ロスに限らず、追加したロスや逆に減らしたロスもあります。

ロス把握の進め方

改善を進める際には、最初から「何をするか」を考えるのではなく、自分たちの職場にどのようなロス(悪さ)がどれだけあるかを知ることからスタートします。悪さがわからない状態では、改善の必要性は見えてきません。また、ロス量がきちんと把握できていなければ、効果の定量的な評価もできなくなります。

悪さがわかったならば、解決しない手はありません。ロスを職場別、ロス項目別、現象別と層別していって「何のロス(悪さ)を解決しなければいけないか」を明確にすることが基本です。

このように、ロスの把握が改善のスタートです。ロスの把握は、以下の手順で行います。

 (1) ロスの定義と測定方法の検討

 自職場に合ったロスを定義し、それをどのように測定するかを検討します。

 (2) ロス量の把握

 ロスデータを収集し、工程(職場)別や設備別などでまとめます。また、ネックとなる弱点工程を明確にします。

 (3) 目標の設定

 職場別の達成すべきロス改善の目標金額を設定します。上位方針や経営目標からブレイクダウンされる場合もあります。

 (4) 改善テーマの選定

 ロス改善の目標金額を達成するために、実施しなければならない改善テーマを選定します。

 ここでのポイントは、改善テーマとして選定するロスの排除目標金額の合計を、達成したい改善目標金額より大きく設定することです(下図)。

改善金額

 達成したい目標とほぼ同額分の改善テーマしか選定していないと、1つでも解決できなかったり、予定どおりに結果が出なかっただけで、ロス改善金額が目標未達成になってしまいます。そこで一般には、ロス改善の目標金額に3〜5割程度上乗せをしてロスの排除目標としたうえで、その分の改善テーマを選定します(仮に1000万円の改善がロス改善の目標金額であれば、1300〜1500万円分をロスの排除目標とし、改善テーマを選定する)。

 次に選定したテーマごとに改善担当メンバーを設定します。また、いつまでにどのレベルまで達成してほしいか(目標と納期)を明確にして任命します。

 

ロスの定義

 ロスは、基準と現状(実際)との差で算出する場合と、目標と実際との差で算出する場合があります。ここでは次のようにロスを定義しました。

設備の効率化を阻害するロス

 時間を尺度として、本来のマシンスピードで、または時間当たりの理論生産量で良品だけをつくり続けたあるべき生産時間に対し、現状の費やしている生産時間の差をロスとしています。

人の効率化を阻害するロス

 工数を尺度として、標準時間を基準とした本来のあるべき必要工数に対し、現状投入している工数との差をロスとしています。

材料の効率化を阻害するロス

 金額を尺度として、出庫した材料費と理論材料費とのコスト差を材料ロスと位置付けました(重量比で実施する場合もあります)。

 解決しなければならない悪さが明確になったら、次はどのように改善するかです。そこで使用するのがロス別の改善ステップなのです。
 

ロスと改善ステップ

次回以降に紹介するロスと改善ステップは次のとおりです。

設備の効率化を阻害するロス

1 故障ロス

2 段取りロス

3 チョコ停ロス

4 速度低下ロス

5 不良ロス

人の効率化を阻害するロス

6 作業ロス

7 編成ロス

8 スキルロス

材料の効率化を阻害するロス
その他のロス

9 事務効率化ロス

次回から「設備の効率化を阻害するロス」を取り上げます。


●著者プロフィール

大塚

大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)

日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント

日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。



鐘ヶ江

鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)

日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント

大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。

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