【NO.10】ロス別の改善ステップ④ 段取りロス(ステップ1〜3)
段取りロスとは
段取りロスとは、現在生産しているワークの生産終了時点から、次の異なるワークへの切替え、調整・試し加工を行い、完全な良品の1個目ができるまでの時間と定義します。
「段取り」の意味を辞書で調べると「うまくことが運ぶように前もって手順を整えること」とあります。つまり、段取りロス改善とはそれらの時間を短縮するために、必要なものを事前に準備をしておいて、間違いなく、早く行えるように作業の手順を考えることです。
生産現場では、在庫低減やリードタイム短縮のために、生産ロットが小さくなる傾向が今後も続くでしょう。それに伴って段取り替えの回数増加は免れられません。段取り時間の短縮は避けて通れない課題です。
段取り時間短縮の方法は大きく2つあります。1つは「段取り回数の減少」であり、もう1つは「1回当たりの段取り時間の短縮」です。先に書いたとおり、段取り回数の減少は、今の市場の傾向から見てむずかしいので、必然的に「1回当たりの段取り時間を短縮」が製造現場ではますます求められてきます。
段取り改善のステップ展開
ここでは、段取り改善の基本的な手順、方法や改善の着眼点について改善のステップに沿って説明していきます(下図)。
ステップ | 項目 | 活動内容 |
ステップ1 | 現状把握 | ・改善対象の選定 ・改善目標の設定 |
ステップ2 | 段取り作業の分析 | ・段取り作業の調査(作業内容、時間、目的、使用治具、部品、確認事項など) ・流れ線図の作成 ・作業内容を段取り区分で分ける ・作業内容を作業区分で分ける |
ステップ3 | ムダの排除 | ・ムダの排除(探すムダ、移動・運搬のムダ、手待ちのムダ) |
ステップ4 | 内段取り作業の外段取り化 | ・内段取り作業から外段取り作業への移行(準備作業、交換・調整作業) |
ステップ5 | 内段取り作業の効率化 | ・交換作業の効率化(着脱の改善、作業分担と並行作業) ・調整作業の効率化(基準の統一、位置決めの改善) |
ステップ6 | 外段取り作業の効率化 | ・外段取り作業のムダ排除 ・外段取り作業手順化 |
ステップ7 | 段取り替え基準化と維持管理 | ・段取り替え作業手順書および段取り替え作業基準書の作成 ・訓練の実施 ・維持管理 |
段取り改善のステップと段取り時間の推移
ステップ1:現状把握
(1) 改善対象の選定
① 段取りネック設備の把握
段取り改善の対象ラインにそれぞれに段取り作業が必要な複数の設備がある場合、もっとも段取り作業に時間を要してネックとなる設備を対象にしなければ効果は出ません。そこで、各設備ごとにどのように段取り作業を行っているのかを調査し、ネック設備を探します。
段取り作業は、以下のような2つのパターンがあります。
i)1人(全員)で複数の設備を順番に段取り作業を行う
ii)人員を分けて、並行で複数の設備の段取り作業を行う
i)の場合は、連続的な段取り作業になるので、ネック設備という見方は必要ありません。連続作業のすべてを対象として段取り改善に着手します。ii)のパターンでは、どの設備の段取り作業が時間を要してネックになっているのかを調査する必要があります。
② 段取りパターンの把握
段取りを行う前後の品種の組み合わせにより、交換する個所や調整項目など、実施する内容が大きく異なる場合は、段取り内容のパターンを調査し、出現頻度の多いパターンを改善対象にします。
(2) 改善目標の設定
段取り替えそのものは、付加価値を生み出さないロスだといえます。ロスを徹底的に排除するためには、中途半端な目標では革新的なアイデアが出てきません。そこでシングル段取りを目標にします。
シングル段取りとは段取り時間を1ケタ(シングル)分で行うことをいい、「10分未満の段取り」のことを指します。ここでは皆さんの現場の段取りの内容、段取り時間に合わせ、10分以上ならばシングル分を、10分未満なら81秒を目標に進めましょう。
とはいえ、すぐに段取り時間を10分にするのは不可能ですから、半減を目指しましょう。まず現状の段取り時間を半分にし、次の改善でさらに半分、半分というように段階式で進め、最終的にシングルに持っていくという繰返しの改善となります。
仮に現状の段取り替えが1時間かかっていても、半減を3回繰り返せば10分以内のシングルに持っていくことが可能です(60分 → 30分 → 15分 → 7.5分)。
具体的な目標が決まれば、後はそれに向かって何をすれば実現できるかという改善案を考えていきます。
ステップ2:段取り作業の分析
(1) 段取り作業の調査
段取り時間の調査は、作業を行う作業者の作業内容を手順ごとにその所要時間を計測し、下図のような表を使って、作業内容を見えるように整理します。
1つの手順に時間がかかるような場合は、その内容をさらに要素作業に分解し、作業の内容をより細かく把握します。その場合は、段取り作業をビデオで撮ることをお勧めします。ビデオは繰返し確認でき、スロー・コマ送り再生によって詳細な分析が可能になり、チームで改善案を検討する場合にも便利です。
複数人で段取りを行う場合は、各人ごとに段取り作業の把握を行う必要があります。
(2) 流れ線図の作成
流れ線図とは、作業のスタートからエンドまでの動きの流れの順序と位置関係を図式的または体系的に記述したもので、ムダ発見の道具です(下図)。
流れ線図の例
ここでは、段取り調査表で調査した作業の手順(No.)に合わせて、それぞれどの場所で作業しているかをレイアウトの平面図にプロットしていき、その作業を動線に合わせてひと筆書きのようにつなげて、動きの経路がどうなっているかを調べます。
実際に描いてみると、遠くまでモノを取りにいっている、動線が交差している、同じ場所に何度も往復しているといった段取り調査表だけでは読み取りにくい動きのムダを発見することができます。また、複数人作業の組合わせやレイアウトの改善を行う際に改善案の着想を得るのにも有効です。
(3) 作業内容を段取り区分で分ける
調査した段取り作業から改善課題を抽出するために、作業内容を「ムダ」「内段取り」「外段取り」の3つに分類します(下図)。
段取り作業時間まとめの例
① 現状の作業内容からムダ作業を見つける
まずは、作業内容からムダを見つけていきましょう。そのポイントは「探すムダ」「移動・運搬のムダ」に着目することです。探すムダとは、段取り替え作業の中に、治具や工具、部品、条件表などを準備するための探す時間です。これは本来必要のない作業ですからムダです。
移動・運搬のムダは、
- 探すムダと共に発生する場合
- 治具、工具、部品を運搬する際に発生する場合
- 交換・調整作業の際に発生する場合
などがあります。段取り調査表や流れ線図の作業項目1つひとつに対して確認しましょう。ここで発見したムダ作業は、ステップ3で徹底的に排除していきます。
② 現状の作業内容を内段取りと外段取りに分ける
次に、残る作業内容を内段取りと外段取りに分けていきます。段取り作業には、設備やラインを止めて行う内段取り(治工具の交換、心出しなど)と、設備やラインを止めないで行う外段取り(工具類の準備、取り外した物の置き場、置き台の準備、部分的な組立作業、予熱など、事前に行えるもの)があります。
ラインの停止時間短縮を第一に考えれば、段取り時間の中における内段取りの時間を短くすることで段取り時間そのものが短縮されます。そのためには、まず現状の内段取りで行っている作業を極力外段取りに持っていくことを考えます。そして現状作業を、内段取り、外段取りに明確に分けておく必要があります。
(4) 作業内容を作業区分で分ける
段取り作業内容をさらに層別すると、以下の3つの作業区分に分けられます。
①準備・片付け作業
②交換作業
③調整作業
①は、段取り作業における準備作業、片付け・清掃作業と観測時に気付いた諸々のムダ作業を集めたものとします。②は、取外し、取付け作業を集めたもので、型・治具・工具・製品の交換などです。③は、位置合わせ、基準設定、検査、試し加工、調整作業を集めたものです。
ここでのポイントは、試し加工や検査は、1回だけは必要だと認めても、2回目以降はムダと判定することです。段取り作業内容を3つの作業区分に分けたら、段取り区分とのマトリクスをつくり集計します。
ステップ3:ムダの排除
このステップでは、ステップ2の段取り作業調査で発見したムダな作業に対して改善を行います。中でも、すぐになくすことができる探すムダ、移動・運搬のムダに着目をします。
改善に当たっては、改善案を検討する場合の原則としてECRSがあります。
- E(Eliminate):やめられないか(排除)
- C(Combine):組み合わせられないか(結合)
- R(Rearrange):入れ替えられないか(置換)
- S(Simplify ):簡単にできないか(簡素化)
段取り改善のアイデアを検討する場合も、このECRSでの発想がポイントであり、各ステップで活用していくので覚えておきましょう。
(1) ムダな作業を徹底的に排除する
まずは、段取り替え作業の調査で発見したムダな作業に対し、「E=やめられないか(排除)」の視点から改善案を検討し、徹底的な排除をねらいます(下図)。
ステップ3の改善対象範囲
① 探すムダの排除
「探すムダ」を排除するための基本的な考え方は「2S、3定、表示を徹底する」ことです。
2Sとは、「整理(いるものといらないものを区分する)・整頓(守りやすい状態にする)」のことで、これらの徹底が不可欠です。2Sを実施するに当たり、次の事項について検討・準備することがポイントです。
- 準備すべき作業は何か
- 必要な治工具は何か
- 必要な作業台は
- 取り外した治具・金型の置き場所は
- 必要な部品の種類、数量は
次に3定は、定位・定品・定量の略で、段取りに使用するモノの置き方、置き場所についてきちんとルール化し、定数、定置管理をします。そして、表示でそのモノが何であるかを、誰でもわかるようにします。
2S・3定・表示を通じて、徹底的に身の周りを段取り作業の行いやすい環境にすることが重要です。
② 移動・運搬のムダの排除
移動・運搬のムダは、探すムダと対の関係にある場合も多いので、探すムダを排除することによりある程度は削減できたことでしょう。治具、工具、部品の移動・運搬は、その都度行うのではなく、1度の運搬で済むように段取り専用台車を作成するのも1つの方策です。
交換・調整作業の際に発生する移動・運搬のムダは、段取りが始まったら設備から5歩以内で作業ができるようにするにはどうすればよいかという視点で、作業やモノの配置を見直していくとよいでしょう。
しかし、大型の設備、ライン化された設備の場合は、どうしても回り込みの移動時間が増えてしまいます。そのようなときには複数人で分かれて段取りを行うことをお勧めします。単純に考えても、2人で分担して行えば作業時間は2分の1になります。
次回は段取りロス改善のステップ4〜7を詳しく解説します。
●著者プロフィール
大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント
日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。
鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント
大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。