現場の人財育成・技能伝承は「先輩社員」がカギを握る!

企業の永続的発展には人の成長が不可欠

団塊の世代が大量に定年を迎える年に因んでクローズアップされた「2007年問題」を皮切りに、製造企業における人財育成・技能伝承が大きな課題として残されています。

IoTやAIの急速な進歩や、DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務改革などにより、製造現場を取り巻く環境はこの先も変化し続けることは間違いありませんが、企業の永続的発展には人の成長が不可欠です。以下に、現場の人財育成・技能伝承がうまく進まない主な要因を、人財と教育の面からあげてみます。

❶人財面の主な要因
  • 採用形態の多様化(正社員のみで構成される現場から、派遣社員・請負化が増えた現場に変化)
  • バブル崩壊後のリストラなどによる優秀な人財の流出
  • 団塊世代の退職による高度技能者の喪失
❷教育面の主な要因
  • 教育システム、教育効果の測定方法が未整備
  • 自社の重要な技術(≒形式知)の認知不足・抽出不足
  • 自社の重要な技能(≒暗黙知)の認知不足・抽出不足

上記のような要因を鑑みると、製造現場で必要となる技術・技能を正しく身につけさせるためには、限られた人財を最大限に活かしながら教育方法に工夫を凝らすことが求められているといえます。

現場で人財育成・技能伝承を担うべきなのは誰か

一般に伝承とは、古くからの制度・風習・信仰・言い伝えなどのしきたりを受け継いで伝えていくことです。翻って製造企業で求められる伝承は、仕事の進め方や手順、加工の原理・原則やその方法などを、カンやコツを含めて現場に教え伝えることといえます。そして、その任を担うのは現場の先輩(≒熟練)社員の使命と考えます(図参照)。

技術(≒形式知)、技能(≒暗黙知)と人財育成の関係性

先輩社員が人財育成・技能伝承のメインとして携わることで、自分が持っている知識と技能を改めて振り返り、弱点補強を行う必要に迫られて自助努力する行動が生まれます。その結果、自分自身が人財としてさらに成長するとともに、教育に必要なツールや仕組みの整備・充実が大きく進みます(知識・技能を教える教材や教具の準備、人財育成の「場」となる保全道場づくり、暗黙知の顕在化および仕事の標準化による教育内容の明確化、他)。

このように先輩社員が技能伝承を担い、教育システムが充実していくことで、以下のような成果がもたらされることが期待されます。

  • OJT(Know-How)にKnow-Why的思考が追加される
  • 教育に自信を持つ人が増え、教育・訓練のレベルが上がる
  • 製造・保全の用語統一が進み、現場全体のコミュニケーションが向上し活性化する
  • 改善力が上がり、現場力の強い会社となる

技術(≒形式知) 技能(≒暗黙知)と人財育成の関係性

製造企業として効果的な人財育成を展開するためには、人財を貴重な経営資源ととらえて経営戦略に基づいた人財育成戦略を立て、組織として体系的な取組みとすることも重要なことです。ただし、形式的な教育プログラムや現場のOJT任せの技能教育ではうまくいかないのは、「2007年問題」以降の経緯を見れば明らかです。自社の現場で本当に必要な技術・技能を棚卸して、その技術・技能を持つ人財(先輩/熟練社員)を軸に据えた教育・訓練を強力に推進することが、いまの製造企業で必要不可欠な取り組みと考えます。


佐藤 光信プロフィール
◆専門分野:工程改善支援
◆TPM:自主保全、個別改善

佐藤光信

2013年から国内外企業のコンサルティングで活躍中。さまざまな業種業態の製造現場におけるTPMの導入やリスタート企業のサポート、技能伝承に関する仕組みの構築などに携わっている。また、前職での経験を活かして幅広いテーマで公開セミナーや社内教育の講師なども務めている。明確で切れの良い言葉と、わかりやすい表現による支援で、クライアント企業から大きな信頼を得ている。


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