菅原 一行 Kazuyuki SUGAHARA

菅原 一行 (すがはら かずゆき)

日本能率協会コンサルティング
プロフェッショナルアドバイザー
TPMコンサルタント

「不易流行」をポリシーにコンサルティングを実践する

基本を忘れずに守り続けることが大切

 人には、5つ基本的欲求があります(※マズローの欲求階層)。社会に出るとまず、安全かつ不安のない状態を実現するために、上司や先輩から言われたことや手順書通りに仕事に取り組み、いろいろな知識・経験を身につけます。 そのうち、社会的欲求が満たされて自信がついてくると、時代の変化や状況の違いから、やり方に対して不満や不安が芽生えてきます。これを満足させようとする欲求が自尊欲求です。そこで、手順書通りにやらない行為が発生します。 
 たとえば、手順書を無視して失敗した人に、なぜ手順を守らなかったのかを聞くと、多くの人は「できると思ったから」と答えます。これは大きな勘違いです。改善しようとして新たに試行することと、基本を守らず「できると思ってやる」ことには大きな違いがあります。守るべき基本は、守らなければならないのです。  
 自主保全の第3ステップ「自主保全仮基準書の作成」では特にこのことをお話ししています。設備管理強調月間2017年度の全国統一スローガンに『変える意識と変えない基本 技術を磨いて故障ゼロ』があります。これは、時代が変わればやり方を変化させる必要がありますが、その際にも基本を忘れずに守り続けることが大切であることを説いているのだと思います。

※マズローの欲求階層:心理学者アブラハム・マズローが「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認(尊重)欲求、自己実現欲求の順で欲求を満たそうとするという基本的な心理的行動を表す。

「継続は力なり」で現場のレベルが向上

 コンサルタントになった当初から、約10年にわたってお付き合いさせていただいているクライアント様があります。TPM活動の導入・推進に尽力された工場長は、活動開始時に「この活動は、会社の基礎体力づくりを目指している。この基礎体力が、今後の会社の大きな力となる」と従業員の皆さんに熱くお話しされていました。 
 下図は、自主保全活動における復元・改善件数の推移を示したものです。活動開始当時は「ベルトが切れたから復元する」というように故障してから復元を行う状態でしたが、活動が進むにつれて「ベルトが切れる時期なので交換する」といった予兆管理ができるようになりました。

 このことは、「継続は力なり」を明確に示しているといえます。すなわち、導入期から成長期にかけては故障を見る目が育つことで改善件数が増えていきますが、継続して設備改善に取り組むことで件数が減っていきます。また、さらにレベルの高い改善を行うようになるので、飛躍期に入った現在も改善件数は大幅に減っていませんが、継続して設備に手を入れてきたことでレベルの上がった現場に変わっているのです。現在も、とにかく愚直に活動を継続してくれています。 
 同社はコロナ禍で厳しい状況にありますが、何とか凌いでおられる様子です。以前のようにチョコ停が頻発していたら、ひとたまりもなかったかもしれません。これまで、活動を継続し続けた成果が活きていると思っています。

原理原則を考えて問題解決に当たる

 はじめてお邪魔した現場で「フロアが白く汚れているのはなぜですか?」と質問したところ、「使っている液体が石鹸のようなものなので、排出時に泡立って容器からあふれ出すため汚れています」という回答をもらいました。とっさに、「台所用液体洗剤をスポンジに受けたとき泡立っていますか? スポンジを数度揉むと次第に洗剤に空気が混ざり、泡立ってきます。洗剤だから泡立つという理屈は、原理原則に合っていないのです」と説明しました。その後、ゆっくりと考えてみると、洗剤メーカーは洗剤を容器に詰めるとき原理原則を考えて、泡立たないように気体を混入させない工夫をされているのだなと、改めて考え直したのを思い出します。 
 先輩コンサルタントに「人間がつくったものの不具合は、必ずゼロ化できる」と教わったことは、「ものの原理原則を考えれば必ず問題は解決できる」ということを言われているのだと思っています。現在では、石油会社で育った私が、粉を扱っている会社や、海外での指導をしています。これは、原理原則考えて問題解決するようにしているから、扱うものが液体や固体と違いがあったり、言語の壁があったりしても、何とかなっているのだと思います。

■菅原 一行プロフィール
◆専門分野: 生産技術支援
◆TPM:個別改善、自主保全、計画保全、教育訓練、管理間接、安全・衛生・環境

石油精製会社において製造部長、技術部長を歴任。品質管理責任者として品質管理に携わるとともに、新しい製品製造設備の導入も企画・実現させた。また、PEC(現:一般財団法人石油エネルギー技術センター)の調査事業に参画するほか、社内のほとんどの職場を経験した。多方面での経験を活かし、コンサルタントとしても1社で10年にわたる長期支援や、インド企業のTPM特別賞受賞に尽力するなど、 さまざまな成果を上げ続けている。

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