【NO.2】ロス改善の考え方② 16大ロス(+αロス)
2・1 ロスの定義と分類
では、具体的なロスを見ていきましょう。コストダウンを阻害するロスの改善は、何も製造部門だけが担うものではありません。それぞれの部門で、または他の部門と連携してロス改善をします。
ここでは、部門別にどのようなロスがあるのかを見ていきましょう。それに際して、生産現場には以下のようなプロセスが存在するものとします。「生産経営ビジネスプロセス」とでも称しておきましょう。営業からはじまり、開発・設計、生産準備を経て、生産、物流につながる一連の流れを表したものです(下図)。
生産経営ビジネスプロセス
今回取り上げているのは、直接的な生産現場として現場改善で焦点があたる中央の生産の部分です(生産、計画・調達、営業部門のロス)。それぞれの部門でロス改善したものが先ほどのコスト区分に関係付けられ、改善効果の有無を確認していきます。
まず、代表的な生産部門のロスを見ていきましょう。下図に生産システム効率化を阻害する16大ロスを示します。
生産システム効率化を阻害する16大ロス
これは大きく、
(1)設備のロス
(2)人のロス
(3)原単位のロス
に分けることができます。
生産部門のロス
その中で設備ロスは、設備の効率という観点で見て大きく8つのロスに区分されます。これを設備の8大ロスといいます。
(1) 設備ロス
① 故障ロス
突発的・慢性的に発生している故障によるロスで、時間的なロス(出来高減)、物量(不良発生)を伴います。一般的には、修理に関する時間が5〜10分以上かかった場合を故障としています。
② 段取り・調整ロス
現製品の生産終了時点から次の製品への切替え・調整を行い、完全な良品ができるまでの時間的なロスです。
③ 刃具交換ロス
主に、機械加工職場や溶接職場で行われる刃具(バイトや砥石)、チップの定期交換や、折損・スパッタ付着などによる一時的な交換、ドレッシングに伴う時間的なロスと、交換の前後に発生する物量ロス(不良、手直し)のロスをいいます。
④ 立上がりロス
設備のスタートアップ時などで、機械的なトラブル(チョコ停・小トラブルなど)がなく、品質が安定し良品を生産できるまでの時間的なロスと、その間に発生する物量(不良・手直し)ロスです。
⑤ チョコ停・空転ロス
故障ロスのように部品交換・修理を伴わない短時間の停止ロスです。代表的な例は、搬送部でのワークの詰まりやひっかかりなどによる一時的な停止で、停止時間は5分以内とされています。
⑥ 速度低下ロス
設備設計時のスピードに対する実際のスピードの差によるロス、あるいは設計時点のスピードが現状の技術水準またはあるべき姿に比べて低いなどを指し、設備のスピードが遅いために発生するロスのことです。
⑦ 不良・手直しロス
不良・手直しロスとは、不良による物量的ロス(廃棄不良)と、修正して良品とするための時間的ロスを指します。
⑧ SD(シャットダウン)ロス
設備の計画的なメンテナンスを行うために設備を停止する時間的ロスと、その立上がりのための発生する物量ロスのことです。
ただし設備ロスは、現場によっては上記の定義が必ずしもあてはまらない場合もあります。
(2) 人のロス
人の効率という観点で見た場合、大きく5つに区分できます(下図)。人のロスは、主に作業の時間的なロス、工数(作業時間×人数)を意味しています。
⑨ 管理ロス
材料待ち、指示待ち、故障復帰待ちなど管理上発生するロスです。
⑩ 動作ロス
動作経済の原則に反する作業方法やスキルの差によって発生するロスで、部品を取るための歩行や移動ロスなどが対象となります。
⑪ 編成ロス
多工程持ち・多台持ちにおける手待ち時間やコンベヤ作業におけるラインバランスのロスです。
⑫ 自動化置換ロス
簡易的な自動化に置き換えることで省人化できるのに、それを行わないために生じるロス。部品や製品の供給・払い出し・運搬などの物流作業もロスとして扱う場合があります。
⑬ 測定調整ロス
品質不良発生・流出防止のため、測定・調整を頻繁に実施しているためのロスです
(3) 原単位のロス
原単位のロスは、生産活動を行うとき使用・排出される諸要素である歩留まり、エネルギー、型・冶具を主な対象としています(下図)。
原単位のロス
⑭ 歩留まりロス
素材重量と製品重量の差、素材投入総量と製品重量の差による物量ロスです。
⑮ エネルギーロス
電力、燃料、蒸気、エア、ガス、水(排水処理を含む)などのエネルギーに関するロスです。
⑯ 型・冶具ロス(副資材ロスを含む)
製品をつくるために必要な型・冶具工具の製作・補修に伴って発生するロスです。
2・2 間接部門のロス
次に、生産経営ビジネスプロセス上の計画・調達の部分を間接部門と見立てて、間接部門のロスを説明しましょう。ここでは、生産に直接携わる生産部門以外のすべてのスタッフ部門を対象とします(下図)。 ロスの見方の前提条件として、各間接部門の仕事の中身を2つに切り分けて考えます。
間接部門のロス
業務機能とはそれぞれの部門で経営目標(目的)の達成のために実際される業務全般のこと、事務機能とはそれぞれの部門で共通して発生する事務作業的な作業全般をいいます(下図)。
間接部門のロスの見方1
業務機能を分解していくと、事務機能レベルの内容に分解される関係にあります。この2つの機能に対して、それぞれロスを見つけていくことになります。
間接部門のロスの見方は、業務機能に対しては、経営貢献上のロス再確認と人材育成になります。経営貢献上のロスは、再度各間接部門でコストダウンや信頼性向上、売上増加(維持)のための施策の検討し、新たに改善テーマを設定します。事務機能に対しては、事務工数ロスを中心して、時間短縮かつコスト低減につながるロス改善を実施します(下図)。
間接部門のロスの見方2
最後に、営業部門のロスを紹介します(下図)。ロスの見方は間接部門と同じ考え方になります。営業部門の業務機能は売上を上げることになるわけですが、そのポイントは顧客の潜在ニーズをとらえることに置かれています。
営業ロス
下図に営業部門のロス構造例を示します。営業部門のロスは、営業形態や営業スタイルによってさまざまでしょう。自社に合ったロス定義を作成し、ロスの顕在化を図ってください。
営業部門におけるロス構造例
これらのロス以外にも、生産ビジネスプロセスを対象としたロスは数多くあるはずです。たとえば、生産リードタイムや在庫ロス、設計ロス、投資ロスなどは今回のロスの紹介には含まれていないので、それぞれの職場や工場のニーズに応じて設定してください。
次回はロスの定量評価(コスト評価と効率評価)を取り上げます。
●著者プロフィール
大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント
日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。
鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント
大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。