【NO.9】ロス別の改善ステップ③ 故障ロス
故障ロスとは
故障ロスとは部品交換を伴う設備の停止時間のロスのことで、このロス時間は「停止回数 × 修復時間」からなります。
修復時間の短縮も大切ですが、ここでの第一の目的は、二度と同じ故障停止を起こさないようにすることです。すでに発生した故障の原因を把握し、その因子の排除が故障の未然防止につながります。
故障ロス改善のステップ展開
故障ロス低減の7ステップ展開を以下の表に示し、各ステップの内容を説明します。
ステップ | 項目 | 活動内容 |
ステップ1 | 過去の故障データの層別 | ・故障分析による弱点の明確化 ・改善テーマの選定 |
ステップ2 | 現状調査 | ・現象の明確化 ・設備の構造・機能の理解 ・点検項目のリストアップ ・現場現物調査 |
ステップ3 | メカニズムの解析 | ・作用しているストレスの抽出 ・ストレスから故障モード発生までの過程を推定 ・故障モードから現象(故障)発生までの過程を推定 |
ステップ4 | 対策の実施 | ・不具合の復元 ・弱点対策 |
ステップ5 | 原因追究 | ・運用面や管理面での真の問題点を追究 |
ステップ6 | 効果の確認 | ・故障推移の確認(設備総合効率の確認) |
ステップ7 | 標準化と水平展開 | ・再発防止の管理の仕組みを整備 |
ステップ1:過去の故障データの層別
設備故障といってもその発生現象はまちまちで、何から手をつけるべきかを判断しにくいものです。そこで、ステップ1では、過去の故障データを分類・整理することからはじめます。設備の弱点部位を顕在化させ、改善すべき故障モードを明確にします。
(1) 故障分析による弱点の明確化
故障分析は、改善対象の設備について、過去の記録に残っている故障データを部位別、故障モード別マトリクスで層別して、改善テーマ選定のための情報を得るための作業です(下図)。
故障分析マトリクスの例
この目的は、どの部品にどのような故障モードが多く発生しているかという視点から設備管理の弱点を明確にし、改善のテーマとすることと、どの故障モードをゼロにすれば、目標値を達成できるかという目標達成の裏付けをつかむためです。
(2) 改善テーマの選定
時間稼動率の向上や、停止ロス時間の削減といった上位目標を達成するためには、故障ロスをどこまで改善するかの目標を設定します。また、故障ロスの削減目標を達成するためには、どの故障モードをいくつゼロしなければならないかを明確にし、これをサブの改善テーマ(以降サブテーマ)とします。サブテーマは、故障分析マトリクスから繰り返し問題を起こしている弱点の故障モードを選定し、「同じ故障は二度と起こさない」ことを目的に選定しましょう。2ステップ以降はサブテーマ単位で進めていきます(下図)。
サブテーマ単位で進める
ステップ2:現状調査
現状調査に入る前に、故障が起こる原因について説明します。故障はストレス(負荷)が強度を上回ったときに発生します。すなわちストレスの放置や劣化の進行、そして強度の不足が故障を生むわけです。
これらを起こす原因として、
- 基本条件の不備
- 使用条件を守らない
- 劣化の放置
- 設計上の弱点
- 技能の不足
の5つがあげられます(下図)。
故障の起きる原因
ここでは、故障モードに対し調査を行い、どの原因に当てはまるのかを突き止めます。
1.基本条件の不備 | 基本条件とは清掃・給油・増締めのことであり、設備本来の寿命を維持するために行うべき項目です。 設備は正しい使い方をしていても、時系列で物理的に劣化は進行します。これを自然劣化といいます。これに対して、強制劣化とは、やるべきことをやっていないために、人為的に劣化を促進させてしまうことであり、自然劣化よりも寿命は短くなってしまいます。 強制劣化は、この基本条件の3要素(清掃・給油・増締め)をきちんと行っていないために起こるケースがとても多いのです。たとえば、給油すべき個所に給油しない、給油しても量が少ない、清掃点検すべき個所をしない、ゆるみを放置するなどです。 |
2.使用条件を守らない | 設備や部品は、設計時にあらかじめ決められた使用条件があります。たとえば、電流、電圧、回転数、取付け条件、温度、使用環境などのように、それぞれの設備や部品によって多くの条件が定められています。 このようにある使用条件のもとで設計された設備は、その条件を守って使っていけばもっとも故障しにくい(寿命がもっとも長い)ようになっています。逆にこれを守らなければ、負荷を高めて寿命を短くしてしまいます。 |
3.劣化の放置 | 設備は、どれだけ基本条件・使用条件を守っても、いつかは劣化し故障します。そこで点検・検査を正しく行い、正しく設備を元に戻す予防修理が必須条件となりますが、これを怠ると故障につながります。 |
4.設計上の弱点 | これら3つの対策を行っても、故障がなくならない場合もあります。このような設備は、設計や製作、部品選定、施工の段階の技術不足やミスなどの結果として、生まれに弱点を持っていることも多いものです。 また、製品のマイナーチェンジなどによって仕様が変わったにもかかわらず、設備をそれに合った仕様に変更せず、故障が増加することもよくあります。 |
5.技能の不足 | 上記の対策はすべて人が行います。つまり人の技能が不足していてはうまく動きません。もっとも問題なのは、せっかく対策を打っても、操作ミスをしたり、修理ミスをしたりして壊してしまうことです。このような故障については、専門的技能を高めていく以外に防ぐ方法がありません。 |
(1) 現象の明確化
故障の中には、操作ミスや暫定対策の放置といったように原因がすぐにわかる場合もありますが、実際は原因が不明確な場合がほとんどです。そこで、故障の現象といえる故障モードを特定することが重要になります。
故障直後の場合は、現場現物が多くの情報を与えてくれます。どのような状態で停止しているのか、停止前に兆候はなかったかなど、故障の原因追求に欠かせない事実情報を抜けなく把握しましょう。さらに故障原因を多く物語ってくれるものに、破損した部品があります。現物を分解調査することにより、どの部品へどのような故障モードが発生したのかを明確にしましょう。
調査を行っていると、故障モードが複数確認される場合があります。そのときはどの故障モードが最初のトリガーになったのかを技術的に判断し、そこから故障の原因追求を進めることが重要です。
ここでは、故障した部品の点検や交換がきちんと行われていたか、交換履歴や期待寿命との比較はどうかについても、合わせて調査しましょう。寿命を知ることにより、今回の故障が劣化の放置なのか、強制劣化もしくは設計上の弱点なのかを判断することができます。また、前回正しく修理されていたか、停止前に操作ミスなどはなかったかを調べることで、技能の不足かどうかも確認できます。
過去の故障を対策する場合は、保管しておいた交換部品などから解析していくことになりますが、ほとんどの場合は現物が残っていません。そうなると故障データだけが頼りです。データは、故障モードを明確にして写真などを併用し、多くの状況情報を残しておくようにしましょう。
(2) 設備の構造・機能の理解
故障モードが明確になったら、すぐにでも原因追求に入りたいところですが、要因に抜けがあってはいけません。まずは図面やシステム構成図などから故障に関連する設備や部品の機構図を作成し、機能・構造から実際の動きや力の伝達、負荷のかかり方、また部品の関係性を理解することが大切です。
(3) 点検項目のリストアップ
故障を起こさないためには、機能部品の1つひとつが正しい状態になっていなければなりません。先に作成した機構図を元に、故障発生部品や周辺・関連部品について、原理・原則からみた望ましい「あるべき姿」を理解し、十分条件も含めて点検項目を洗い出します。
ここでは、故障モードとの関係性は考えずに、十分条件も含めて徹底的に点検項目を洗い出しましょう。
(4) 現場・現物調査
原理・原則からリストアップした部品の点検項目についての実態を調査します。つまり、関連機能に対する基本条件が正しく行われているか、使用条件が正しい状態になっているかを現場・現物で1つひとつ調査し、不具合点を抽出します。決め事が守られていないために強制劣化となり、故障につながっている場合も少なくありません。
何も問題が見つからない、いわゆる条件が守られていたにも関わらず故障が起きている場合は、設計上に問題があるとも考えられます。
ここまで調査を行うことで、故障の5つの原因のどのパターンで起きたかが推察できます。また、故障の原因は1つとは限りません。発見した不具合により、複数の場合も考えられます。
下図にステップ1、2の進め方を示します。
ステップ1・2の進め方
ステップ3:メカニズムの解析
現場・現物調査で明らかになった不具合点(5つの原因)が今回の故障モードの原因になり得るかどうか、また故障モードと現象(故障)との間に関係があるか、故障発生のメカニズム(過程)を推定して関係性を解析します(図表3・1・6)。
(1) 作用しているストレスを抽出する
部品が劣化するのは、そこに何らかのストレス(負荷)が作用するからです。そこで、現場・現物調査で発見した不具合によって発生するストレスは何かを明確にします。
たとえば、潤滑不足という基本条件不備の不具合があれば、潤滑不足 → 油膜切れ → 摩擦力増加といったようにストレスを抽出します。
(2) ストレスから故障モード発生までの過程を推定する
不具合から抽出したストレスと故障モードとの関連性を1つひとつ検討します。
(3) 故障モードから現象(故障)発生までの過程を推定する
続いて故障モードから現象(故障)発生までの過程を推定します。故障モードが複数確認された場合は、この作業が重要になります。
ステップ4:対策の実施
現場・現物調査で明らかになった不具合点(5つの原因)についての対策を実施します。
(1) 不具合の復元
現場・現物調査の結果発見した不具合個所については、すべてを復元・改善の対策とすることが前提です。なぜなら不具合を放置しておくと劣化は成長し、他の部位にも影響を与え、別の新たな問題を引き起こす可能性があるからです。
(2) 弱点対策
故障の1次原因が設計上の弱点であるものについては、さらなる原因追求の深堀りを実施します。
作用するストレスに対応した機器の選定がされているか、作用するストレスに対応した強度が確保されているかなどを検討し、それらの課題を解決します。
ステップ5:原因追究
故障の1次原因に対して対策を行ったら、これで故障の原因追究が終了したわけではありません。その故障モードの原因となった不具合がなぜ発生したのか、なぜ未然防止できなかったのかといった運用面や管理面での真の問題点を追求します。
それには、
基本条件や使用条件の場合は、実施できなかったのはなぜ?
劣化の放置の場合は、復元しなかったのはなぜ? 点検できなかったのはなぜ?
設計上の弱点の場合、部品の選定をミスしたのはなぜ?
というように「なぜなぜ分析」を活用して、人間の行動まで徹底的に掘り下げることが重要です(図表3・1・7)。つまりは、故障の原因は人の行動の悪さであるのです。
ステップ6:効果の確認
故障対策の効果確認については、すぐにわかるものではなく、長期で見る必要があります。しかし、対策を行った後の効果の確認は重要です。今回の対策と水平展開の結果も踏まえ、故障モードの発生状況はどう変化しているかを確認しましょう。
ステップ7:標準化と水平展開
ステップ7では、ステップ6までの成果を標準化し、再発防止の管理の仕組みを整備します。具体的には、日常点検基準、定期点検基準、定期整備基準、自主保全と計画保全の役割分担基準などを作成します。
また、今回の対策を類似の設備や部品を持つものに対し水平展開を行うことや、設計・製作・施工上の問題は、MP情報を活用して新設備への反映も意識しましょう。
次回は段取りロス改善のステップを詳しく解説します。
●著者プロフィール
大塚 寛弘 (おおつか のぶひろ)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部トータルコストマネジメントユニット
プロセス・デザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター チーフ・コンサルタント
日本プラントメンテナンス協会入職後、主に金属製品製造、電気・電子部品製造、輸送用機器、食品・飲料、製薬・医薬、製紙などの生産性向上、コスト低減、品質向上のテーマに取り組む。現場目線と経営目線の両面でのコンサルティング支援を行う。国内および海外の支援企業多数。現在はTPM全般、原価管理/原価低減、品質改善、IE、工場レイアウト計画、購買・調達など幅広いテーマに取り組んでいる。
鐘ヶ江 克則(かねがえ かつのり)
日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター
兼 設備管理イノベーションセンター センター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 スマートファクトリー推進室 チーフ・コンサルタント
大学卒業後、電気メーカーの生産技術者を経てJMACのコンサルタントに。生産戦略、生産方式、設備管理を専門領域とし、国内・海外の製造業において生産性改善、コストマネジメント、不良削減、在庫削減、リードタイム短縮など数多くのプロジェクトを支援。 現在、高度設備保全技術の研究及び設備保全業務のDXについて取り組んでおり、関係執筆も多数。